2025/05/29
防災・危機管理ニュース
人工知能(AI)に関する新法が28日の参院本会議で成立した。AIを悪用した世論操作や人権侵害などのリスクが顕在化し、欧米が規制と推進で揺れる中、日本はリスク対応と研究開発の促進の両立に軸足を置いた。バランスを重視して罰則規定を設けなかったため、「中途半端」(野党議員)との指摘もあり、国民の安全を担保できるのか不安も残る。
林芳正官房長官は28日の記者会見で、AI新法成立を受け「実効性のある被害の回避や拡大防止が可能だ」と強調した。
AIのリスク対応を巡り、欧州連合(EU)では2024年5月に規制法が成立。危険度を4段階に分類し、最も重大な違反行為には最大3500万ユーロ(約57億円)などといった制裁金を科す。これに対し、トランプ米政権はAI規制を強めるバイデン前政権の方針を撤回。各州によるAI規制を10年間禁止する動きにも出ており、推進にかじを切る。
こうした中、日本の新法は、世界に後れを取るAIの研究開発を厳しい規制で妨げないよう罰則規定を見送った。悪質な事案は刑法など既存法令で対処するほか、国が調査し、研究開発機関や事業者名を公表することで抑制を図る。
石破茂首相は3月、総合科学技術・イノベーション会議で、世界のモデルになる制度だとして「世界で最もAIを開発・活用しやすい国を目指す」と意気込んだ。
だが、AIを悪用した偽情報の拡散や巧妙化した犯罪は後を絶たない。国会審議では、リスク対応の不十分さや被害の防止拡大に向けた実効性のある対応を求める指摘が相次いだ。中でも、児童買春・ポルノ禁止法では明確な規定がない「ディープフェイク」(AI作成による偽の動画や画像)への対応が焦点となったが、付帯決議で取り締まりの強化が示されるにとどまった。
利用者データの収集が不安視される中国のAI新興企業ディープシーク(深度求索)などの新たな事案に関し、対策が盛り込まれていないことへの懸念も示された。新法に反対した野党議員の一人は「AIは既に多分野で深刻な問題を引き起こしている。予防的観点からの規制が今必要だ」と述べ、新法は不十分だと指摘した。
政府は今後、首相をトップに全閣僚で構成する「人工知能戦略本部」を設置し、AI対応を強化する。悪用リスクについて、内閣府幹部は「今後策定する指針を活用するなど柔軟性を持って対応する」と説明した。
〔写真説明〕記者会見する林芳正官房長官=28日、首相官邸
(ニュース提供元:時事通信社)

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