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中国が日本産水産物の輸入再開を進める方針を明らかにした。この動きは、2023年8月以降、福島第一原発の処理水放出を理由に中国が日本産水産物に課していた輸入禁止措置の緩和を示すものである。しかし、この方針転換の背景には、単なる経済的動機を超えた複雑な政治的意図が存在する。特に、トランプ米政権の貿易保護主義の高まりが、中国の対日政策に影響を及ぼしている。また、日本企業にとって、中国の姿勢軟化はビジネス機会の拡大を意味する一方、尖閣諸島や台湾を巡る地政学的リスクが依然として存在し、脱中国依存の戦略を維持する必要性が浮き彫りとなっている。

トランプ政権の保護主義と中国の対日接近

2025年1月に発足したトランプ政権は、バイデン前政権同様、中国に対しては保護主義的な通商政策を鮮明にしている。トランプ政権は中国製品に対し高関税を課す姿勢を鮮明にしており、特にハイテク分野や戦略物資における対中制裁を強化している。これに対し、中国は米国依存からの脱却を図り、経済的・外交的孤立を回避するために、欧州や日本、グローバルサウスなどとの関係強化を模索している。日本はその経済規模と技術力から、中国にとっても重要な経済パートナーである。2025年5月、中国商務省は日本産水産物の輸入再開に向けた協議を加速する方針を表明したが、これはトランプ政権の圧力に対する中国の対抗策の一環と捉えられる。

すなわち、中国は日本に対して経済、貿易の面で柔軟な姿勢を強調することで、日米関係に楔を打ち込む意図を持っている。日米同盟は、インド太平洋地域における米国の安全保障戦略の要であり、中国にとってその結束を弱めることは地政学的な利益にも繋がる。日本産水産物の輸入再開は、表向きは科学的根拠に基づく措置緩和とされるが、実際には日本に対する経済的柔軟性を示すことで、日本の対米従属を揺さぶる政治的メッセージを発している。中国は、日本が米国との関係を優先しつつも、経済的利益を求めて中国との取引を拡大する可能性に期待している。