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2025年7月、中国でアステラス製薬の日本人社員が拘束され、実刑判決を受けた事件は、日本企業にとって深刻な警鐘を鳴らすものとなった。中国で2014年に施行された反スパイ法、およびその後の改正により、同法の適用範囲が拡大し、曖昧な罪状での拘束や実刑判決が相次いでいる。この事態は、日中関係の緊張や米中対立といった地政学的文脈を背景に、日本企業がリスク管理を再考する必要性を浮き彫りにしている。

中国反スパイ法の拡大と企業活動への影響

中国の反スパイ法は、国家安全を名目に、外国人のビジネス活動や情報収集を厳しく監視する枠組みとして機能している。2023年の改正では「国家安全に危害を及ぼす可能性のある行為」の定義がさらに曖昧になり、当局の裁量が拡大した。アステラス製薬の社員のケースでは、具体的な罪状が公表されず、どのような行為が違法とされたのか不明瞭なまま判決が下された。これは、2017年以降に日本企業関係者を含む複数の外国人が同様の状況で拘束された事例と共通する特徴である。このような法の運用は、企業活動におけるリスクを増大させる。医薬品や技術開発など、高度な専門知識を扱う日本企業にとって、通常の市場調査や技術交流が「スパイ行為」とみなされる可能性がある。特に、中国当局が経済安全保障を重視する中で、外国企業への監視が一層厳格化していることは見逃せない。