2025/06/22
防災・危機管理ニュース
80年前の沖縄戦は、9万4000人の市民が犠牲になった。島外疎開が十分進まず、軍人と民間人が混在した戦場は悲惨さを極めた。現在の政府は台湾有事を念頭に、沖縄県・先島諸島の住民ら12万人の避難計画の策定を急ぐ。「戦争の準備か」「安心感につながる」。沖縄側の受け止めは複雑だ。過去の教訓も踏まえ、政府は地域の理解を得るための丁寧な対応が求められている。
政府は今年3月、先島諸島の避難先となる九州・山口8県がまとめた受け入れの初期計画を公表した。フェリーや民間航空機で1日2万人を輸送し、6日間で住民や旅行者計12万人を避難させる。期間は1カ月を見込み、受け入れ側は避難者の地域のまとまりを維持し、生活必需品の提供や健康管理の支援を行う方針を定めた。
1944年7月、米軍の侵攻をにらみ、東条英機内閣は沖縄県の高齢者や子どもなど10万人を同月中に島外疎開させると決定した。約8万人が避難したが、翌45年3月に計画は打ち切られた。地縁、血縁のない土地への転出に不安が根強かったことや、日本劣勢の情報が隠されて県民に危機感が薄かったことが進まなかった理由とされている。
44年8月には学童疎開船「対馬丸」が那覇港から長崎へ向かう途中に米海軍の潜水艦に撃沈された。軍艦と商船を区別なく攻撃する「無制限潜水艦作戦」によるものだった。この前から沖縄近海では南方からの引き揚げ船などが攻撃を受けていたが、国は情報を統制していた。
対馬丸に乗っていた約1800人のうち、判明分だけで学童784人を含む1484人が犠牲となった。当初はかん口令が敷かれたが徐々に県民に伝わり、疎開事業はさらに遅滞した。
現在、玉城デニー知事は「政府に対してはさまざまな問題点、課題点を挙げている」と語り、計画の全体像などについてより具体的な説明を求めている。政府関係者は「有事想定の具体的な内容は開示できないが、その上で協力を求めていくのは難しい」と認める。
家屋の保全や避難先での生活の保証など、課題は多い。今後、高齢者や障害者など要配慮者の扱いや、長期化した場合の就学・就労対策などについて検討を深め、2026年度中に具体的な計画となる「基本要領」を取りまとめる。
国と沖縄県、県内市町村は23年から武力攻撃予測事態を想定した避難の図上訓練を実施。26年度は実動訓練も行う計画だが、県幹部は「攻撃がどういう形態になるのか。どこまで計画を詰めればいいのかわれわれもよく分からない」と話す。同時に「そもそも有事はあってはならない」と強調した。
〔写真説明〕撃沈される前の対馬丸(対馬丸記念館の展示パネルより)=2014年6月、沖縄県那覇市
(ニュース提供元:時事通信社)

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