2015/03/20
防災・危機管理ニュース
安全文化を根付かせるための新たなアプローチ方法
2015年3月5日、東京都・品川フロントビルで安全管理責任者向けセミナー「何故、決められたルールを守れないのか? ~安全文化を根付かせるための新たなアプローチ方法~」が開催された。主催するデュポン株式会社サステナブルソリューション事業部・東南アジア・日本地域ビジネス・ダイレクターのニルス・スタインブレッヘ氏と同・カルチャー&チェンジマネジメント担当グローバルリーダーのロッド・グティエレス氏が、グローバルに展開するデュポン社の安全管理システムを紹介した。

安全性の向上に進んで取り組むマネジメントシステム
黒色火薬の製造からはじまったデュポンの創業は1802年。高い研究開発力をベースに合成繊維や合成樹脂など数々の世界的ヒット製品を世に送り出してきた。デュポンの核となる価値観の1つに安全がある。1811年には「トップマネジメントが安全な操業を確認したうえで従業員に操作させる」という最初の安全ルールを設け、安全統計を開始するなどこれまで200年にわたり安全文化を育んできた。1940年代に「全ての怪我は防げる」という原則を確立。現在は「Committed to Zero」を掲げ、単純な目標にとどまらせず社員一人ひとりが事故ゼロに取り組んでいる。
Part1 セーフティ・エクセレンスへの道のり
講師:ニルス・スタインブレッヘ氏

「私たちには安全性を向上させる独自のシステムがあります。より健康的で安全な生活に協力できます」と語ったのはニルス・スタインブレッヘ氏。デュポン・ブラッドリーカーブ(DuPont Bradley Curve)を提示し「みなさんの会社はどのステージにあると思いますか」と尋ねた。ブラッドリーカーブとは、なぜ会社や現場によって安全性や生産性などの差が生じるのかをデュポンが調べ上げ作製した図。提示されたスライドには現場文化の違いと安全性との関連を示してある。起きた事故にだけ反応する反応型、上司の指示にだけ従う依存型、自分の知識や経験をもとに自発的に行動する独立型、仕事をする仲間までも気遣える相互啓発型の4ステージに分かれている。安全管理上、現場を独立型のステージにまで向上させる重要性を説明。その実現のために必要なセーフティ・エクセレンス(Safety Excellent)*とフェルトリーダーシップ(Felt Leadership)を紹介した。「セーフティ・エクセレンスを構成するのは1.統合的なマネジメントシステム、2.予知の文化、3.オープンかつ協力的な文化、4.職務規律と安全文化」だとニルス氏は語る。
フェルトリーダーシップとは何かを説明するために会場で流した動画では、フォークリフトを乱暴に扱い製品を倒す運転者とそれを見つけた社員が登場する。社員が運転者と話し合い、議論を重ねて納得させ、運転者はより安全にフォークリフトを操作する。この社員の会話にフェルトリーダーシップのエッセンス(容易に観察できる、安全に対する信念を明確に行動で示す、従業員に対して肯定的な印象を与える、個人的なコミットメントを行動で示す、組織に浸透させる、すべての階層の従業員に影響を与える、すべての階層の従業員を巻き込む)が組み込まれていた。
ニルス氏は「安全性の向上が優れた業績に結びつく」と、世界各国での安全文化の定着方法の違いなどの経験談を交えながら話した。
Part2 安全文化を発展させるための新しい統合的アプローチ
講師:ロッド・グティエレス氏

ロッド・グティエレス氏は心理学者。デュポンの提供する安全管理システムの新たなアプローチを解説した。デュポンがこの安全管理で約30年間にわたって利用してきた方法がBehaviour Based Safety (BBS)。観察とフュードバックによる改善方法だ。
職場の安全性を高めるためにBBSが重点を置いているのが自発的な取り組み。安全に対する行動は、十分に管理された長期間にわたる段階的な方向付けによって変化し、その仕組みには反復学習は欠かすことができない。行動の変化によって思考が変化する━これがBBSの基本原則だ。
職場の安全性を高める上で重要なポイントは報酬のバランスだ。報酬の効果は与える間隔や頻度によって変わり、サプライズなどによる学習効果が劇的に効果を高める。また、正の強化と負の強化も重要になる。正の強化とは良い結果を伴う行動により安全行動が促され、負の強化とは負の結果を意識させ、安全行動を導く。シートベルト着用の警告ランプが負の強化の例だ。このうち最も長期的な学習効果が高いのは正の学習効果だという。
しかし、BBSにも限界がある。なぜならBBSは結果に対する恐怖という外因的なメカニズムを利用して安全行動を促す。この方法は個人の選択や認知プロセスを回避していることが多く、その効果は3~7年で安定し頭打ちになる。BBSの中止や慣れが原因だ。
より高い安全管理のためにブラッドリーカーブにある依存と非依存の境界に注目。この境界を越えるためには従業員の内発性が必要だという。現在は、これまでの事業経験と最新の研究から最も効果的なアプローチ、BBSの原則と心理学的な側面を合わせた方法を採用している。目標は個人が率先して自分自身の安全と周囲の安全に気を配り、適切に評価を下せ、対応できる人材の育成と企業の成長だという。
そのためにはルールや規則、状況認識、信念と姿勢、行動を中心に、リーダシップコミットメントや物理的環境や社会的文脈、組織固有のリスクを包含する統合的アプローチが安全管理において重要になるという。
ロッド氏は「安全は単純に人々が何をするかだけではなく、職場という社会的文脈の中で何を考え、何を信じ、何を選択するかを考えることだ」と語った。
*安全における世界最高レベルの優良企業のこと。リスクを最小化して、企業価値を最大化することを指す
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
被災時に役立ったのはBCPではなく安全確保や備蓄
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第2回は、被害を受けた際に有効であった取り組みについて
2022/05/19
-
最後に駆け込める場所をまちの至るところに
建築・不動産の小野田産業は地震や津波、洪水、噴火などの自然災害から命を守る防災シェルターを開発、普及に向けて取り組んでいます。軽くて水に浮くという特色から、特に津波避難用での引き合いが増加中。噴火用途についても、今夏には噴石に対する要求基準をクリアする考えです。小野田良作社長に開発の経緯と思いを聞きました。
2022/05/18
-
新しいISO規格:ISO31030:2021(トラベルリスクマネジメント)解説セミナー
国際標準化機構(ISO)は2021年9月、組織向けの渡航リスク管理の指針となる「ISO31030:2021トラベルリスクマネジメント」を発行しました。企業がどのようにして渡航リスク管理をおこなったらよいか、そのポイントがまとめられています。同規格の作成にあたって医療・セキュリティの面から専門的な知識を提供したインターナショナルSOS社の専門家を講師に招き、ISO31030:2021に具体的に何が書かれているのか、また組織はどのようなポイントに留意して渡航リスク管理対策を講じていく必要があるのかなど、具体例も交えながら解説していただきました。2022年5月17日開催
2022/05/18
-
BCPは災害で役に立たない?
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第1回は、BCPの見直し頻度と過去の災害における役立ち度合いについて取り上げる。
2022/05/18
-
政府調査 BCP策定率頭打ち
内閣府は5月18日、令和3年度における「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」についての結果を発表した。それによると、大企業のBCPの策定状況は、策定済みが前回の令和頑年度から2.4%伸び70.8%に。逆に策定中は0.7%減り14.3%で、策定済と策定中を合わせた割合は前回とほぼ同じ85.1%となった。政府では2020年までに大企業でのBCP策定率について100%を目標としてきたが頭打ち状態となっている。中堅企業は、策定済みが40.2%(前回34.4%)、策定中が11.7%(前回18.5)%で、策定と策定中を足した割合は前回を下回った。
2022/05/18
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2022/05/17
-
-
-
SDGsとBCP/BCMを一体的にまわす手法~社員が創り出す企業のみらい~
持続可能な会社の実現に向けて取り組むべきことをSDGsにもとづいてバックキャスティングし、BCP/BCMを紐づけて一体的に推進する、総合印刷サービスを手がける株式会社マルワ。その取り組みを同社の鳥原久資社長に紹介していただきました。2022年5月10日開催。
2022/05/12
-
企業が富士山噴火に備えなければならない理由
もし富士山が前回の宝永噴火と同じ規模で噴火したら、何が起きるのか? 溶岩や噴石はどこまで及び、降灰は首都圏にどのような影響を及ぼすのか? また、南海トラフ地震との連動はあるのか? 山梨県富士山科学研究所所長、東京大学名誉教授で、ハザードマップや避難計画の検討委員長も務める藤井敏嗣氏に解説いただいた。
2022/05/11
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方