【ベルリン時事】プラスチックによる環境汚染防止に向けた初めての国際条約採択を目指す政府間交渉を巡り、開催地のスイス・ジュネーブで民間のロビー活動が過熱している。産業界は数百人を動員して「経済に悪影響が出る」と企業の足かせになる規制の回避を画策。これに対して環境団体は専門家と共に潜在的な健康リスクを訴え、「汚染者にルールを作らせるな」と火花を散らしている。
 「数百万人の雇用を生んでいる」「規制は物価高につながり低所得者が割を食う」。米エクソンモービルやサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコといった石油メジャーに加え、石油を主な原料とするプラスチックの業界団体は、生活に根差した目線を強調し、生産量や化学物質の規制に反対している。
 環境団体側は、プラスチック業界から200人以上の関係者が今回の交渉に参加登録したと特定し、一部は各国の代表団に加わり条文作成にも関与していると批判。石油業界を温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」交渉でも衝突した宿敵と見なし、「市民や地球ではなく、企業の権益を守るための条約になってしまう」(米NPO国際環境法センター)と危機感をあらわにしている。
 一方、科学者ら専門家は微細な「マイクロプラスチック」の健康被害を懸念している。英バーミンガム大のシュテファン・クラウゼ教授(環境学)は7月末、世界自然保護基金(WWF)と共に、関連研究の数が1500本超に上ったとの調査を公表。「証拠は積み上がっている。予防的な対応を必要とするだけの重みがある」と踏み込んだ規制を求めた。
 プラごみ条約の策定は2022年から国連主導で進められ、目標期限だった昨年中の合意に失敗した。政府間交渉は今月5日に再開。14日までの会期内に、生産段階の規制を求める欧州連合(EU)や島しょ国と、廃棄段階の管理強化で十分とする産油国が歩み寄れるかが焦点となっている。 
〔写真説明〕海岸に散乱したプラスチックごみ=2024年3月19日、インドネシアのバリ島(EPA時事)

(ニュース提供元:時事通信社)