【ワシントン時事】米国の公衆衛生対策の司令塔である疾病対策センター(CDC)がかつてない混乱に陥っている。CDCを所管するケネディ厚生長官のワクチン政策に抵抗したなどとして、トップのモナレズ所長が就任後約1カ月で解任されたためで、世界的な公衆衛生分野の先導役と評価されてきたCDCは機能不全に陥りつつある。
 CDCの元所長・所長代行9人は1日、ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)上で「ケネディは米国民全員の健康を危険にさらしている」と題した論考を発表。モナレズ氏の解任のほか、数千人に及ぶ保健分野の連邦職員の解雇やワクチン軽視といったケネディ氏の施策の問題点を列挙し、「受け入れ難く、全国民が政治指向にかかわらず危機感を抱くべきだ」と訴えた。
 厚生省は8月27日、7月末に就任したばかりだったモナレズ氏の退任を突然発表した。ケネディ氏は、特定の新型コロナウイルスのワクチン承認取り消しや複数のCDC幹部の解雇をモナレズ氏に迫っていたとされ、同氏の弁護士は「非科学的で無謀な命令を追認することを拒否したため、標的にされた」と反発。CDC高官数人もモナレズ氏の退任発表後に抗議のため一斉に辞任した。
 CDCを巡っては8月に入り、ワクチン懐疑論者が南部ジョージア州アトランタの本部の建物に180発超の銃弾を撃ち込む事件も発生。ケネディ氏の過激な反ワクチン論が凶行を誘発したと内部から非難する声が上がっていた。
 ケネディ氏はCDCに「倦怠(けんたい)感」が漂っているとして組織文化の修正の必要性を唱え、医学の専門教育歴のないオニール厚生副長官に所長代行を兼務させた。ケネディ氏を起用したトランプ大統領は解任劇について直接コメントせず、SNSへの投稿で製薬各社にコロナワクチンの効果に関するデータを公開するよう要求。「CDCはこの問題で引き裂かれている」と述べるにとどめている。 
〔写真説明〕ケネディ米厚生長官(左)と解任された疾病対策センター(CDC)のモナレズ所長(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)