来年7月に障害者の法定雇用率が現在の2.5%から2.7%に引き上げられることに伴い、民間企業の障害者採用は難しさを増している。健常者を含めて「売り手市場」の中、採用には個々の特性を踏まえた丁寧な選考が必要。採用後の定着も課題で、「働き方」の工夫やIT支援ツールの導入などで働きやすい環境の整備に取り組む。
 キリンホールディングスは、春の新卒採用枠で障害者に、総合職と転勤がない「エリア限定職」の二つの選択肢を用意する。担当者は「学生数も限られる中、法定雇用率の引き上げで採用の難易度は年々上がっている」と指摘。音声読み上げソフトなどの支援ツールの活用に加え、障害に関する冊子を職場で配布して、障害者と健常者が共に働ける環境づくりに努める。
 「1店舗1人以上の雇用」を掲げるファーストリテイリングの障害者雇用率は4.91%と高水準。国内外のユニクロやGU店舗で約1500人が働く。これまで店舗裏での作業に従事することが多かったが、作業の効率化に伴い、障害があることを客に示す「サポートカード」を身に着けて売り場でも活躍する場面が増えた。
 東京都内のユニクロ店舗で働く笹岡龍斗さん(25)は、聴覚障害のためスマホのメモ機能などを駆使して接客もする。「言葉を伝えるのは難しいが、接客は好き」と笑顔で語った。
 野村ホールディングスでは、傘下の特例子会社野村かがやき(東京)にグループ全体の3割程度となる120人が就職し、郵送物の仕分けや研修会場の設営などに従事している。入社後すぐに有給休暇や通院休暇の権利を付与し、毎月面談を行うなどきめ細かくサポート。就労継続が難しいとされる精神障害を持つ社員が9割を占めるが、定着率は8割に上る。
 以前は一般採用枠で職を転々としてきたという勤続6年の男性社員(38)は「給与は下がったが、負担やつらさが軽減され、長く続けられている」と話す。特例子会社は年内に都内に新たな拠点を開設し、採用を拡大する方針だ。
 厚生労働省の最新集計で、民間企業の実雇用率は2.4%。障害者雇用に詳しい法政大学の真保智子教授は「急速な採用活発化で雇用の質やミスマッチに懸念が残る」と指摘。「障害の状況や仕事が適しているか本人と話し合い、常に調整していくことが必要だ」と話している。 
〔写真説明〕ユニクロで品出しを行う笹岡龍斗さん。スマホのメモ機能を使って接客も行う=8月14日、東京都江東区
〔写真説明〕研修会場の設営業務に従事する野村かがやきの社員ら=7月17日、東京都千代田区

(ニュース提供元:時事通信社)