オールハザードBCPにおいては、パンデミックを想定した感染症対策を考えておく必要がある(イメージ:写真AC)

2009年に発生し、後に豚インフルエンザとして知られる新型インフルエンザウイルスによる世界的なパンデミック、2019年12月31日に発生したとされる新型コロナウイルスによる世界的なパンデミック。

このように、10年ごとに新興・再興ウイルスによるパンデミックが発生すると仮定すると、次なるパンデミックの発生は2029年。あと4年(!?)で次の忌まわしいパンデミックがまた発生することなどと考えたくもない一方、サステナビリティ報告書に記載しなければならない上場企業のBCP対策においてはどうでしょうか?

首都直下地震や南海トラフ地震などの震災BCPだけでは十分とはいえず、水害、気候変動・地球温暖化対策、サイバーセキュリティ対策、そして感染症対策を含めなければならず、この数年、BCP担当者は経営陣からの指示に対し大いに混乱しているのではないでしょうか。

企業を悩ます感染症BCPにおける広報

限られた企業内のBCP策定リソースを考えると、これらのオールハザードに対する BCP 対策として優先度が高いのは、まずはそれぞれの行動計画(タイムライン)策定だろうと考えられます。

パンデミックにおいては、2024年に政府行動計画(新型インフルエンザ等対策政府行動計画)が改定され、自治体などと連携した対策が整理されました。これをそのまま企業の行動計画に展開するのは難しいものの、考え方の端々に参考にすべき内容を見出すことができます。

感染者発生時の広報は企業にとって難しい問題(イメージ:写真AC)

パンデミック発生時、特に企業の頭を悩ますのは、自社内で感染者が発生した場合の広報(外部公表)です。新型コロナのケースを思い出してください。自動車メーカーやコンビニでは、1人の感染者が出たとして速やかな公表と事業所や店舗の閉鎖を行いました。その対応は社会的責任が大きい企業の行動と広報のモデルとして、他の企業も倣い、追随しました。

しかし、これらの企業の広報は「包み隠さず速やかに」という原則の一方、広がりをみせるパンデミックのケースにおいては、社会的混乱を助長したことも事実です。そのことを踏まえ、企業における感染者発生時の公表に対する考え方の例として、次のような整理をすることができます。

1. 感染拡大防止と社会的信頼の両立
・感染者の発生を公表することは、感染拡大防止に資する一方で、組織の信頼性や従業員・顧客の安心感にも影響するため、慎重な判断が必要。

2. 個人情報保護とのバランス
・感染者氏名や詳細な行動履歴など、個人が特定される情報は原則公表しない
・公表する場合は、感染者の同意を得るか、個人が特定されないよう配慮する。

3. 行政との連携
・保健所や自治体の指導に従い、必要な情報を共有しつつ、広報内容を調整する。

下表は、これらの方針を踏まえ、政府の主な取り組みと企業の広報方針等をまとめたものです。この範囲では、企業の広報方針にとってこれまでと大きな変更はないでしょう。

●政府の主な取り組みを踏まえた企業の広報方針

しかし、政府によるリスクコミュニケーション等、広報に関するステートメントに従うと、以下のような考え方になると考えています。

●リスクコミュニケーションまでを踏まえた企業の広報方針

ここでのポイントは、初動期、感染者が発生しても原則は「非公表」であることです。また「公表」に際しては、感染拡大の状況を鑑み、次ページのようなタイミングと内容が求められます。