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企業と社会問題というテーマについて、経営学の視点からその変遷を振り返っておきたい。これは、経営者にとって誰が重要な利害関係者(ステークホルダー)であるかという問題と表裏の関係にある。当初、企業にとっての社会は企業内で働く労働者集団であった。大量生産の現場で、経営者はいかにして労働者に対して会社目標に従った忠実な働きを期待できるかが重要な社会問題といえた。その後、先進諸国の消費者に、購買力、消費力がつき始めると、消費者にとって不都合な商品に対する企業と消費者の対峙関係が生じた。企業にとって、その対応が社会問題となった。その後、株式会社の発展に伴い、企業の所有と経営の分離が意識されるようになり、経営者にとって、所有者としての株主が重要な利害関係者となってくる。

1990年代に入ると、株式会社の巨大化に伴い大きな権力を持つ経営者をいかに統治するのかといった議論が活発となる。この企業統治の論議には2つの方向がある。一つは、株主を資本主義の原理に従って復権させる方向であり、もう一つは、株主以外の多様な利害関係者といかなる関係を構築し、広く社会に貢献できる企業経営を志向させるといった方向である。これらの議論からわかることは、資本主義体制下における企業が私的利益を追求すること自体はその体制原理からして容認されるべきであるが、そうした利益追求の姿勢を多少抑制したうえで、社会全体の利益になることを志向すべきであるという考え方が登場してきたことである。

2000年代に入ると企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)が論議されるようになる。ここでは、企業利益と社会全体の利益はお互いに対立、相反する関係であるという前提の下で、社会的責任を果たすために、私的利益の追求を多少犠牲にせざるを得ないという考え方に立っていた。2010年代に入り、持続可能性の概念に注目が集まりCSRに代わって持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)、ESG(Environment, Social, Governance)が人々の関心を集めるようになった。経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)を両立させる共有価値の創造*1 (Creating Shared Value: CSV)といった概念が提示された。

*1 米国の経営学者マイケル・ポーターとマーク・クレーマーが、2011年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した論文「The big idea: Creating Shared Value」の中で提示された概念である。

このような変遷を経た上で登場したサステナブル経営であるが、統一された定義はない。しかし、外部環境が一層複雑化する中で、外部環境を企業の持続的な(サステナブル)成長へとどのようにつなげてゆくのかに腐心する経営を意味しているものと考えられている。そして、企業の私益追求を多少犠牲にせざるを得ないとする姿勢から、経済的価値の実現に、つながる社会的価値の実現を目指し、経済性と社会性を両立可能なものとする経営姿勢の転換が、サステナブル経営の特徴と捉えられる*2

*2 詳しくは、森田雅也「企業の社会的責任からサステナブル経営へ」西尾チヅル、上林憲雄編著『サステナブル経営』2025年、同文舘出版、P.70〜82を参照願いたい。