レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者だったナスララ師がイスラエル軍の攻撃で死亡してから9月27日で1年が経過した。昨年11月の停戦まで続いた攻撃で多数の幹部を殺害された上、イスラエルによる組織切り崩しを受けたヒズボラは勢力を回復していない。一方、ヒズボラ抑え込みを狙うアウン大統領が主導する武装解除の道筋も見えない。
 ヒズボラの現最高指導者カセム氏は9月27日、ナスララ師の追悼式典で「武装解除に応じることはない」と気勢を上げた。しかし、ヒズボラは幹部の多くを失い、イスラエル全土を射程に収めていたミサイルを含め、兵器の大多数も破壊された。明治学院大の溝渕正季准教授(中東政治)は「ヒズボラは軍事的に解体状態で、勢力回復は難しい」と分析する。
 イスラエルの工作がヒズボラの内部深くに及んでいる実態も明らかになった。昨年9月にはヒズボラ構成員が持つ通信機器が相次いで爆発。また、イスラエル軍はナスララ師ら幹部の居場所を正確に把握し攻撃を実施した。溝渕氏は「組織内が疑心暗鬼になっている」と説明した。
 親イランだった隣国シリアのアサド政権が昨年12月に崩壊した影響も大きい。シリア暫定政権は反イランの姿勢を示しており、ヒズボラは重要な補給ルートを遮断された形だ。
 今年1月に成立したアウン政権は、米国とサウジアラビアの支援を受け、ヒズボラの弱体化に乗じ年内の武装解除を狙う。その後は国軍が国防を一手に担う構想だ。ただ、溝渕氏はヒズボラを武装解除できる勢力が不在と指摘。シーア派を中心にヒズボラの影響力は残っているとして「無理に武装解除に動けば(1975~90年に起きた)内戦が再燃しかねない」と困難さを解説した。米国も国軍への資金供与を提案するなど後押しするが、実効性に乏しいという。 
〔写真説明〕レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者だったナスララ師の追悼式典で流された現最高指導者カセム氏の映像=9月27日、ベイルート南郊(ロイター時事)

(ニュース提供元:時事通信社)