中国が日本への渡航自粛を呼び掛けたことを受け、日本の旅行、小売業界は今後の動向に目を凝らしている。今年の訪日外国人数は初めて年間4000万人を突破する勢いで、国内消費は外国人旅行者に支えられている側面も大きい。日中関係の急速な悪化は、日本経済に冷や水を浴びせかねない。
 日本航空は中国路線の予約について、「現時点で今週末の状況に目立った変化はないが、引き続き注視していく」と回答した。日本旅行業協会もツアーの予約に関し、「今のところ大きな取り消しはない」と説明する。
 今年春から夏にかけて香港や韓国を中心にSNS上で「7月5日に日本で地震が起こる」とのうわさが拡散。こうした国・地域で日本への旅行を手控える動きが広がった。この時は一過性の風評で済んだが、今回の事態はより深刻化する恐れがある。
 観光庁によると、今年1~9月の外国人旅行者による消費額は6兆9156億円。このうち、中国は2割強を占め、国・地域別で最も多い。日本への渡航に注意を促した香港は5位で、合わせて3割に上る。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、中国と香港の渡航自粛に伴う経済損失が1兆7900億円に達し、国内総生産(GDP)を0.29%押し下げると試算する。今年3~8月の免税売上高の56%を中国が占めた高島屋は、「訪日客数を注視していきたい」とコメントした。
 ただ、発端が外交問題だけに民間企業は打開の糸口を見いだせない。「われわれにどうこうできる問題ではない」(小売業)と、消費の現場ではあきらめムードも漂う。2012年秋から13年にかけ、沖縄県・尖閣諸島を巡る問題を背景に中国からの旅行者が大幅に減少した。業界関係者は「過去にも日中関係は悪化している。政治は政治、経済は経済だ」と話した。 

(ニュース提供元:時事通信社)