アサド独裁政権崩壊後のシリアを率いるシャラア暫定大統領。かつては国際テロ組織アルカイダとのつながりが深く、米国などから危険視されていた。しかし、国家指導者としては「リベラル色」を前面に打ち出す。専門家は過去の政治路線を巡る態度をあいまいにしたまま、外交成果獲得を狙う「実利主義者」だと分析する。
 シャラア氏は11月、シリア首脳として1946年の独立以来初めてホワイトハウスを訪問、トランプ米大統領と会談した。パレスチナ問題でイスラエルを支持する米国は、強硬なイスラム主義者の多くが敵視する存在。就任から1年たたない段階での訪米は、シャラア氏を取り巻く環境の急速な変化を印象付けた。
 立命館大の末近浩太教授(中東地域研究)はシャラア氏について「実利を優先している」と分析。制裁解除や西側諸国からの復興支援を引き出す外交を重視した点で、「信条固執」のアルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)とは異なると語った。
 東京外国語大の青山弘之教授(現代東アラブ政治)も「シャラア氏は『国際テロ政権』というイメージ払拭のため、リベラルな統治体制を築かなければならないことを理解している」と述べた。
 一方、シャラア氏の内政上の課題は国民統合だ。暫定政府は少数派や女性の権利尊重を掲げる。しかし、10月の人民議会選では、選挙人による投票の結果、暫定政府を主導する国内多数派のイスラム教スンニ派の男性が議席の大半を占めた。
 スンニ派主導の政権運営はクルド人、アラウィ派、ドルーズ派といった国内少数派の離反を招きかねない。青山氏は「既に復興支援の配分が公正でないとの声が聞かれる」として「少数派に独立の動きも見られる」と説明した。
 末近氏は、内政について「想定より変化が遅い」とみる。政策への反発が反暫定政府の動きにつながるのを防ぐため、シャラア氏が慎重な対応を余儀なくされていると見ている。 
〔写真説明〕シリアのシャラア暫定大統領=6日、ドーハ(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)