アイシン熊本の被害状況

今回の地震では、自動車部品大手アイシンの熊本地区の工場も影響を受けた。7月28日時点でアイシンは、従業員を避難させ、生産を停止したことを明らかにしている。人的被害は確認されていないが、設備の被害状況などについて確認を進めている。

アイシングループも、防災・BCPを継続的に強化してきた企業である。その原点となったのが2016年熊本地震だった。

当時、グループ会社のアイシン九州とアイシン九州キャスティングでは、運搬クレーンや金型の落下、生産設備の損傷など甚大な被害を受け、自社工場での生産継続を断念し、愛知県や海外工場で代替生産を実施した。

この経験を教訓に、グループ共通BCP基準の策定、天井クレーンの脱輪・落下防止対策、金型の転倒防止、サーバーの自家発電化や多重バックアップ、統一対策本部体制、先遣隊による初動調査、全国からの相互応援体制、定期的な机上演習・実動訓練など、防災・BCPを大幅に強化してきた。

能登半島地震では、こうした取り組みにより、グループ会社のアイシン軽金属が被災しながらも、設備の転倒や重大な機械損傷を抑え、比較的早期の復旧につなげている。

レジリエンスこそが企業の真価

防災・BCPに取り組むことで被害を軽減できることは理想である。しかし、どれほど備えていても被害を完全に防ぎきれない場合はある。

企業の真価が問われるのは、その後である。今回のイオンの対応では、長年培ってきたBCPの考え方が表れていた。社長は発災直後に被災地へ入り、作業服姿で記者会見を行った。そして、事業再開や業績への影響よりも、人命救助を最優先すると明言した。災害対応において最優先すべきものが何かという原則を社会に示した対応だったと言える。

重要なのは、どれだけ迅速に状況を把握し、意思決定を行い、顧客や社会からの信頼を維持できるかである。これこそが企業に求められるレジリエンスである。平時から積み重ねてきた防災・BCPを土台として危機を乗り越え、以前よりも強い組織へと成長する力でもある。

「自社の備え」から「つながりの備え」へ

複雑化する社会でレジリエンスを高めていく上で、改めて考えるべき視点も明確になった。それは、レジリエンスを一社単独の能力としてではなく、異なる組織が協働して発揮する集合体としての力として捉え直すことだ。

今回の災害は、その必要性を二つの側面から浮き彫りにした。一つは、雇用の壁である。イオンモール熊本の犠牲者は、全員がテナント企業の従業員だったとみられている。商業施設では、施設運営者が直接雇用していない労働者が数多く働いている。雇用関係の有無にかかわらず、施設内で働くすべての人に対して、安全配慮義務をどう果たすのか。テナントや下請け企業の従業員が、防災訓練や安否確認体制の「死角」に置かれてはいないか、これは全国で共通に考えることではないか。

もう一つは、企業の壁である。アイシンの例が示すように、今日では一社の被災の影響が、サプライチェーンを通じて瞬く間に国内外へ波及する。この傾向は、東日本大震災以降、年を追うごとに顕著になっている。自社がどれほど備えていても、つながる相手が倒れれば事業は止まる。逆に、自社の停止は取引先や地域の雇用を直撃する。

つまり、現代のレジリエンスは「自社の備え」だけでは完結しない。施設運営者とテナントが一体となった訓練、サプライチェーンを貫く情報共有と相互支援、自治体や地域との連携協定など、組織の壁を越えてこれらを平時から築いておくことこそが、組織集合体としてのレジリエンスの実践となる。

防災・BCPに無関心な企業は社会から信用されない

被災した企業は今も全力で対応を続けている。私たちはそれを応援するとともに、決して対岸の火事と考えてはならない。一社一社、そして関係する企業が一丸となって備えを積み重ね、防災力とBCPを高め、被害を受けても早期に立ち直れる社会を築いていくことが重要である。

一方で、「防災やBCPは無意味だ」「結局、被害は避けられない」と考えるのであれば、自社が今、同様の災害に見舞われた場合、何日、何週間、何か月で復旧できるのかを冷静に考えてほしい。防災・BCPに取り組まない企業が、顧客や従業員、取引先から長期的な信頼を得ることは容易ではない。

今回の熊本地震は、企業レジリエンスの重要性を改めて社会に問いかけている。