前回のコラムで、レジリエンスの対応力が備わっている企業には「暖かい家族的な雰囲気がある(家族主義経営)」「仕事で失敗しても首になることなく、安心して働ける環境・人間関係がある(心理的安全性の確保)」の特徴があると述べました。危機発生時に迅速な行動力を発揮し、レジリエンスの力を発揮するには、この2つの特徴を持つ組織風土が不可欠となります。また、過去の「海外危機管理シリーズ」で述べてきましたが、危機管理対応で重要なことは経営層の迅速な決断、率先垂範の行動など、危機を乗り越えるためのリーダーシップも合わせて必要となります。
今回は、イラク侵攻後に見せた経営層のリーダーシップと社員がいかにして「レジリエンス」の力を生みだしたか?他社の事例とともに整理しながら見ていきます。
事象の整理
(1)第一次湾岸戦争(砂漠の嵐作戦)は、90年11月8日に米国のブッシュ大統領が20万人規模の米軍の増派を指示し、91年1月17日に米・英国軍が空爆を開始したことから始まりました。その約1か月後の91年2月27日にブッシュ大統領が、多国籍軍の勝利を宣言し、翌28日に戦闘停止。91年3月3日に戦争の完全終結を盛った国連安保決議案が採択され、91年4月3日に停戦が発効しています。
(2)第23回でも触れましたが、90年9月にはまだ戦時下であったにもかかわらず、調達の責任者(部長)がサウジアラビア、アブダビ、オマーンを訪問。その後、10月には副社長が、サウジアラビア、アブダビ、オマーンなどを訪問し、増産協力に対しお礼を伝えています。この9月、10月の訪問は、原油の確保の協力への感謝を伝えることが主な理由でしたが、経営層のリーダーシップによる「レジリエンス」の始まりとも言えます。
(3)この経営層のリスクを厭わない行動は、中東駐在員や中東以外の国に駐在する駐在員や全社員を鼓舞し、海外危機管理及びレジリエンスを会社全体で一致協力して行おうという気持ちにさせています。91年4月3日の停戦発効の1カ月後の5月には、クウェートの所長とT氏が、クウェート入りして、事務所や社宅の被害状況、油田や積出港の様子、復興見通しの調査を開始しています。停戦発効後1か月という他社では考えられない早さですが、社員の行動の原動力は経営陣の率先垂範があったと思われます。91年5月時点では、クウェートはいまだ荒廃し、地雷も完全に撤去されておらず、ホテルの部屋にも焦げ臭さが残っている状況でした。また、市内では、イラクに協力したパレスチナ人狩りで毎晩非常線が張られ、治安は最悪の状況だったと報告されています。第一次情報のリアルな状況と現地入りの覚悟が伝わってきます。
(4)その後6月には中東統括の事務所長とT氏がクウェート入りしますが、その際には、クウェート国営石油の役員がわざわざ二人が泊まっているホテルに来て「良く帰ってきてくれた」と目にいっぱい涙を浮かべて抱きついて2人の労をねぎらってくれています。
(5)その後のクウェート復興は予想以上に早く進み、7月には原油の輸出が一部再開、11月にはすべての油田火災(注)が鎮火し、11月から原油の輸出が日本向けに再開。クウェート国営石油の社長や在クウェート日本大使を日本に向け出発するVLCC船上に招いて取引再開を祝うレセプションも行っています。
(注:イラク軍は91年2月26日に始まる撤退時にクウェートの油田施設を次々と破壊しながら撤退。クウェート領内の約600か所以上の油井から一日あたり、300~700万バーレル(日本の一日あたりの消費量は300万バーレル)と推計される原油が、どす黒い煙を上げて炎上。待機中に巻き散らかされる大量の硫黄酸化物と煤煙で太陽が遮られ、黒い雲と雨で、気温が例年より8度も下がり、大気汚染による健康被害が発生していました)
(6)経営陣による率先垂範の行動は、他の産油国にもなされ、当時最大の産油国であるサウジアラビアに91年12月に本社社長が表敬訪問。石油大臣に対し湾岸戦争時の増量のお礼を伝えるトップ外交を行っています。
(7)92年に入ると、1月にクウェートとの長期契約関連で供給の責任者(部長)がクウェートに出張。その後、2月には副社長とクウェートの復興状況の視察に同行。クウェート国営石油とも面談し、現地駐在再開の可能性及びビジネス再開の課題などを確認後、クウェート事務所の再開を指示しています。
(8)なお、コラム第19回で紹介したクウェート事務所で雇用し、イラクにT氏が人質として連行されたときに尽力してくれていたイラク人のH運転手とこの時点で連絡が取れています。H運転手はT氏と家族がイラクに連れていかれた後、事務所や駐在員の社宅が略奪にあうのを少しでも防ごうと、一時帰国していたイラクのバスラとクウェートとの間を往復して家財を運び出し保管するなどをしてくれていました。危険を冒してまでの貢献の理由を聞いたとこころ「クウェートの事務所でまたT氏と働きたいから」と言っていたとH運転手のコメントが伝えられています。
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