2018/10/22
安心、それが最大の敵だ

尊王攘夷と開国論
文久2年(1862)は日米修好通商条約の締結からわずかに4年後であった。だが政局の動きは1年といわず、月が変われば様相を一変するという激変ぶりだった。ちなみに文久元年(1861)4月、アメリカで南北戦争が勃発している。福地桜痴(旧幕臣、言論人)は「文久二年は幕府の歴史に於いて最も多事を極め、幕府衰亡の運命は実に此一年に決したる年なり」(「懐往事談」)と記し、公武合体論で京都の朝廷と幕府の間を周旋していた長州藩が、一変して朝廷を急進的な攘夷論に巻き込み、倒幕論を唱えてその鋭鋒を露骨にしてきた、と説いている。薩摩藩島津久光の卒兵上洛による寺田屋騒動、生麦事件、長州過激派によるイギリス公使館焼き討ち…。
幕府が海軍を増強するためオランダに軍艦1隻を発注し(当初アメリカに発注したが、南北戦争のためオランダに変更した)、同時に榎本釜次郎(武揚)、沢太郎左衛門、赤松大三郎ら留学生15人を同国に派遣したのもこの年6月である。幕府陸軍は後にフランス皇帝ナポレオン三世に軍事顧問団の日本派遣を要請した。フランス陸軍は世界最強とされていたからであった。蘭学者大鳥圭介は、軍学者の立場からこの外国からの顧問団と心血を注ぎあうことになる。
文久2~3年(1863)にかけては、尊皇攘夷過激派がその激しさを増し、政治は京都と江戸をそれぞれ中心とする二元運動は始めた。幕府の屋台骨を根底から揺り動かした。文久3年2月の将軍家茂の上洛がそれに拍車を掛けた。家茂は20歳前の青年将軍であった。江戸と京都ではテロルが横行し、異人斬りがあとを絶たなかった。

蘭学者・大鳥圭介が万次郎から英語を学ぶようになって2年が経った。万次郎は圭介に助言した。
「英語の発音を正確に習得する積りならば横浜に出掛けて西洋人について学ぶべきです」
圭介は万次郎の語学力には物足りなさを感じていただけに、早速横浜に出てアメリカ人の教養人、ヘボン(James C. Hepburn)、ブラウン(当時の表記ではフローン、Samuel R. Brown)、トムソン(David Thompson)らに相次いで面会して英語教授を求めた。そしてヘボン博士について英語と数学を学ぶことに決めた。
圭介はその後フランスの兵学を軍事顧問フランス人士官ブリュネやカズノフについて学んだ。フランス語にも通じるようになる。圭介32歳。この間も物情は騒然としていた。薩英戦争、水戸天狗党決起、池田屋騒動、蛤(はまぐり)御門の変、第一次長州征伐…。
- keyword
- 安心、それが最大の敵だ
- 幕末
- ジョン万次郎
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/01
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方