2018/11/09
アウトドア流防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
「スフィア基準」が目指す理念を理解しよう

1994年東アフリカのルワンダで大虐殺がありました。100日で50万~100万人、人口の10%から20%が亡くなったと言われています。その後、国連やNGOが支援活動にあたりました。ところが、支援に入ったというのに、死亡者が8万人以上もでてしまったそうです。日本でいうところの災害関連死とでもいうべき現象が起こったのです。

なぜ、支援に入ったのに8万の人が亡くなってしまったのか、関係団体は深く反省して、合同調査を実施し、分析に取り組みました。その結果わかったことは、支援が「場当たり的」で「調整不足」で「説明が足りなかった」。だから、死者が増えたという事が明らかになったそうです。
この分析は、日本の災害支援を考えても、鋭く胸に刺さるキーワードに思えます。
これらの課題を解決するために、作られたグループが、スフィアプロジェクトです。プロジェクトで支援の最低基準を作り、それをまとめたのが通称スフィアハンドブックです。

合同評価では、課題解決のためには、活動の質がこのままではいけないと認識されました。「活動の質の向上」が必要なのはいうまでもありませんよね。でも、それに加えて、活動には「被災者への説明」が欠かせないとされています。支援する側は質の向上のために、いろいろ支援しなきゃと思いがちで、ときには上から目線になってしまうかもしれません。
でも、被災者のニーズにあっていなかったり、被災者の声をきくなど手続きの適正さがないとやはり災害関連死が起こってしまうのは日本でも同じですよね。ちなみにこの発想、国際基準には、多い気がします。モニタリングや、アカウンタビリティなど適正手続をとても大切にしますよね!
そして、具体的には「人道憲章」として、「被災した人々に必要なこと」は何かということをスフィア基準では最初に記載しています。まず書かれているのはトイレの数じゃなくて、被災者の権利なんです。ご存知でしたか?
スフィア基準には2つの信念があって、


ここから3つの権利を人道憲章としています。
◆人道援助を受ける権利
◆保護と安全への権利
まずは権利が書かれているのですね。
でも、権利という言葉を聞いただけで、「わがまま」と同義と思ったり、アレルギー反応を示す人もいるかもしれません。
実はこの点について、内閣府の「避難所運営ガイドライン」では最初のページにそれはわがままではないですよという説明があるのです。この文章、わたしの好きな部分なので、おまけで紹介させてください♪

ここでは、スフィア基準と同様、「質の向上」というのは、「人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送ることができているか」という「質を問うもの」としています。スフィアでいうところの権利と書かなかったのは、誤解を避けるためかもしれません。でも、スフィアで書いている権利というものも、ここで書かれているように「人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送ることができているか」ということですから、文章にあるように、「『生活水準』とは全く異なる考え方であるため、『贅沢』という批判はあたりません」ということになります。
次にスフィア基準の人道憲章のあとには、以下の権利保護の原則が書かれています。

権利保護の原則
◆公平な援助へのアクセスを確保
◆身体的・心理的な危害から保護
◆回復できるよう、人々を支援
このあと、コア基準というものがでてきます。

この図は、現在のスフィアハンドブック(2011版)には入っておらず、CHS(Core Humanitarian Standard)という別の基準なのですが、2018版からスフィアのコア基準になります。今回は先取りでCHSの図を使って説明をしていただきました。
CHSの図では、支援の中心には被災した地域社会や人々がいること、人道性や公平性、中立性や独立性を考えて、個人と組織がどうあるべきか、9つのコミットメントが記載されています。
たとえば、
5 苦情を積極的に受け入れ適切な対応をしている
ということが書かれています。
この「被災した人々の意見」を聴くという姿勢、被災者への説明を重視するスフィア基準では、この後の説明でもあちこちででてくるので意識しておいてください。
という具合に、トイレの記載は一体どこ?という感じになるほど、基本理念がたっぷり書いてあります。
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