5.内部通報者に対するヒアリングのポイント3

─通報事実が現在も進行中の不正か否かの確認

内部通報者に対するヒアリングに際して、確認しなければならない重要事項は、通報にかかる不正が現在も継続して行われているか否かです。過去の不正である場合と現在進行形で継続中の不正である場合とで、対応の仕方が全く異なります。当然のことながら、現在進行形で継続している不正の場合における緊急度は極めて高いです。いつマスコミや捜査機関に露見し、企業の社会的評価を一気に崩れさせてもおかしくなく、極めて高いリスクが存在するからです。そのため、対応策としても、事実関係の調査のみならず、マスコミ対応を含む広報対応や記者会見リスクについても緊急に準備をしていく必要があります。

また、現在進行形で継続中の不正の場合には、社内調査にとっては、過去の不正の場合よりも有利な証拠獲得手段があることも確かです。不正行為のモニタリングによる動かし難い証拠の入手がそれです。例えば、従業員が定期的に金庫から現金を盗んでいて、現在もそのような不正を継続しているという場合、監視カメラによるモニタリングによって現行犯的な証拠を獲得することが可能です。

このように、不正が過去のものか現在も引き続き行われているものかについて、早い段階で見極めることは重要で、内部通報者に対するヒアリングにあっても、この点の確認を怠ってはならないのです。
 

6.通報者に対するヒアリングの手法   

─「オープン質問法」と「一問一答法」

内部通報者からのヒアリングの目的は、既に述べたように、通報事実の信憑性を確認することがまず第一の目的と言えますが、信憑性があると判断された場合には、当該不正事実に関するあらゆる情報を収集して不正行為者を特定し、不正の手口等を解明しなければなりません。そうした不正関連の情報収集を行うことも内部通報者ヒアリングの目的であることは間違いありません。そうした不正に関する情報をヒアリングでいかに聞き出すかが問題です。

ここで、2つのヒアリング手法を紹介します。1つは 「オープン質問法」で、もう1つは「一問一答法」です。そして、内部通報者からのヒア リングや関係者ヒアリングにあっては「オープン質問法」を採り、一方、否認する嫌疑対象者に対するヒアリング手法にあっては「一問一答法」を採用するのが効果的です。

オープン質問法とは、話す内容に関して細かい条件設定を与えないで、当該不正に関して、とにかく知っていることを全て話してください、という姿勢で質問する手法です。内部通報者、特に内部通報者が不正行為の被害者である場合や次回紹介する 「関係者に対するヒアリング」では、この質問法でできるだけ正確で多くの情報を収集することを心がけるべきです。これに対して、否認する嫌疑対象者に対するヒアリングは、情報収集のために行われるものではなく、自白を取ることが目的です。それゆえ、オープン質問法ではなく、一問一答により相手の矛盾をついていくようなヒアリング手法が効果的です。要するに、内部通報者や関係者に対するヒアリングにおいて「オープン質問法」により十分情報を収集し、事実確認を行った後、嫌疑対象者に対し、そうした豊富な情報を基にした「一問一答法」により、事実を解明していくのです。
 

7.オープン質問法によるヒアリングの注意点

ところで、オープン質問法でヒアリングを行う際の注意点としては次のようなものがあげられます。

①話の腰を折らない

自由に話させるのであるから、あくまでも聞き役に徹することが重要です。

②否定形を用いない。

一般的に、例えば「今お話ししたこと以外は知らないのですか」という聞き方をすると、「知らないです」と答えてしまいます。否定形の質問に対してはそれに同調する答えが導き出されやすいのです。否定形を使わず「ほかには どういうことを知っていますか」 というように、肯定文での聞き方をするとより多くの情報を収集することが可能となります。

③質問自体に正解が示唆されているものは避ける

例えば「それを上司に話したのに、上司は何も動いてくれなかったんですか」と質問をしたとします。こうした質問は、実は、質問自体に期待されている答えが隠されています。ヒアリン グ対象者はこのような質問をされれば、質問者は「はい」という答えを期待しているものと受け取り、「はい」 と答えてしまうものです。

④キーセリフを獲得する

キーセリフとは、当事者しか知り得ないようなセリフです。例えば、セクハラの事例であれば、内部通報者であると同時に被害者でもある者に対するヒアリングにおいて、その者が単に「課長にホテルに誘われた」と話した場合よりも、「(セクハラ嫌疑者が)自分の妻が藤沢の 実家に帰っているのでホテルに行こうと誘われた」と話した場合の方が、その話により強い信憑性を感じるものです。このように、実際にセクハラの被害に遭った者しか話せないようなキーとなるセリフを引き出すことが重要です。

⑤矢継ぎ早に質問しない

矢継ぎ早に畳み掛けるように質問されると、答える側にはストレスとなるものです。話の腰を折るような質問と同様、矢継早の質問に対しては、 記憶を喚起する間もないので、表面的な答えしか得られないものです。


以上のような注意点に配慮しながら、オープン質問法によって内部通報者に自由に語らせることができれば、不正に関する豊富な情報を入手することができ、社内調査の初動としては幸先の良いものとなるでしょう。

次号は関係者ヒアリングについて解説します。

(了)