2012/07/25
リスクマネジメントの本質
4.経営的視点を支えるデータの作成ツールを考える
リスクを評価し、対策を講じるについて優れた論 理力・構成力・イマジネーションをもった人材の育成に関して付け加えるべき問題点は、経営的視点で判断する場合のデータだと思います。
わが国の現状で、実務経験・現場感覚の豊富な人材が、経営的視点で判断する部署に存在していないとすれば、せめて判断の基礎になるデータがあればと思います。
事業継続計画を策定するにあたり、BIA(ビジネ ス・インパクト・アナリシス)を行って分析します が、そこには非常に複雑な連鎖が存在します。例えば、東北で大地震が発生した場合、そこにある自社の生産設備への影響、そこにあるサプライチェーンへの影響、その結果全国にある自社の生産設備、販売に与える影響を判断するためのデータがなければなりません。BCM の実践にあたり、BCP のデータと、事故発生後のデータを比較検討し、複雑な連鎖の中で、今回はどこに問題が発生しているか、どこに発生する可能性があるかのデータがソフトで作成できれば、経営的視点からの判断が容易になると思います。
東日本大震災の教訓について BCP の実務家と議論をした際、わが国のような企業組織の場合は、事故・災害発生後速やかに会社の状況を把握し、経営判断の基礎になるデータを作成するソフトがあればという議論になりました。まだ世の中には無いと思いますし、ソフトを作成するのは容易ではありません。しかし、エクセルベースの作業で、事故・災害 発生時に短時間でこうしたデータを人の力で作成することは至難の技です。東日本大震災に対する企業の対応に関する報告書の指摘に対し、わが国の企業 組織の問題点を踏まえた方策を考えるべきだと思います。
平成 23 年5月に公表された中小企業庁のレポート「中小企業が緊急事態を生き抜くために」には、 「事業継続計画の善し悪しは、災害などが発生した 際に事業継続のために効果があったか否かの結果に尽きるのであって、いかに立派な文書であろうと、 手法がどれほど精緻であろうと結果として事業の継続に役に立たなければ意味がない。むしろ実際に役 立つ事業継続計画は、各社固有の状況を踏まえて経 営者自らの経営判断がシンプルに示されたものであろう。その答えは、 災害による事業の障害に直面し、 その困難を乗り越えて現在に至っている企業が被災時にとった実際の対処のなかにこそ見出せるはずである」と記述されています。
中小企業の場合はそれで良いと思いますが、規模が大きく、連鎖の複雑な大企業の場合は各社固有の状況を踏まえて経営者自らの経営判断が示されるのに役立つデータが直ちに提供できるかが問題になると思います。わが国では計画を作ったら安心する傾 向がありますが、企業が被災時にとる実際の対処について、あるいは平素 PDCA サイクルを回すについて、わが国企業の現実を直視した実務体制を考えるべきではないでしょうか。
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