第2回 我が国における BCP (事業継続計画 ) の問題点
経営者のリスクマネジメント・BCP の本質に対する理解不足

眞崎 達二朗
眞崎リスクマネジメント研究所代表、GRC ジャパン株式会社顧問。コンサルビューション株式会社顧問。株式会社ニチオン顧問。京大法学部卒。1957 年住友銀行入行。本店支配人などを経て、同行退職後、山之内製薬株式会社役員、銀泉株式会社役員など歴任。05年6 月中小企業庁「中小企業BCP 策定運用指針」作成プロジェクトの有識者会議メンバー。
2012/03/25
リスクマネジメントの本質
眞崎 達二朗
眞崎リスクマネジメント研究所代表、GRC ジャパン株式会社顧問。コンサルビューション株式会社顧問。株式会社ニチオン顧問。京大法学部卒。1957 年住友銀行入行。本店支配人などを経て、同行退職後、山之内製薬株式会社役員、銀泉株式会社役員など歴任。05年6 月中小企業庁「中小企業BCP 策定運用指針」作成プロジェクトの有識者会議メンバー。
1.BCP の生成過程と問題点
もともとアメリカでは 「Disaster Recovery Plan : 災害復旧計画」として「災害発生時にどう対応する か」が議論されていました。日本でも「企業の地震 対策」は以前から重要なテーマでした。
他方、 「キューバ危機」 (1962)をきっかけに、米国では「危機管理」 (Crisis Management)という 言葉が社会に広まりました。当初は、軍事・安全保 障の用語として使用されていましたが、その後、リスクマネジメントの分野でも使われるようになって きました。
企業経営の分野では、リスクマネジメント(Risk Management)という概念の中に危機管理(Crisis Management) を含めています。もともと英語ではCrisis Management は発生後の対処、Risk Management は事前予防の概念でしたが、現在では米国でもその辺は相互乗り入れした形になっているように見えます。
2001 年9月 11 日の同時多発テロ発生後に、金融機関を中心にバックアップ態勢を整えていた企 業の復旧が早く、そうでない企業の中には倒産に至った ところもあることから、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が強調されるようになりました。
9.11 での企業の対応のエッセンスは、企業が代替オフィスや、バックアップサイトを用意していた ことに加え、災害時に継続すべき重要な業務と、その再開手順をあらかじめ明確にしていたことにあります。したがって、受身の防災計画ではなく、自然 災害・大火災・感染症などの発生に際し、中核事業 (後述)を継続させ、早期に復旧させるために、いかにして事前に備えておくかという前向きの対策が BCP の醍醐味だと言われています。
一方、 日本では 2005 年に内閣府、 経済産業省(情報セキュリティ関係)で BCP ガイドラインができ ました。アメリカは原子爆弾対策・テロ対策や大規 模停電対策が BCP 対応項目の上位にありますが、 我が国では主に地震対策を目的に BCP が作られています。そのためか、わが国では従来からの防災計 画との違いが明確になっていない気がします。
インターリスク総研の下記図表で明らかだと思いますが、レベルⅠの対策の内容は従来からの防災計画と重なっています。それを前提に企業の中核事業 (後述)をいかに継続するかのレベルⅡがあり、レベルⅢは社会への対応だとされています。
今回の東日本大震災における BCP の効用や教訓についても、どのレベルの部分の議論かを分けて考える必要があります。大方はレベルⅠの部分の議論 で、レベルⅡの部分の議論は少ないように思われます。
リスクマネジメントの本質の他の記事
おすすめ記事
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方