1.東日本大震災に対する企業の対応に関する報告書の指摘
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の中間報告書は、「原子力の災害対応に当たる関係機関や関係者、原子力発電所の管理・運営に当たる人々の間で、全体像を俯瞰する視点が希薄であったことは否めない」 としています。また、みずほ銀行のシステム障害特別調査委員会報告書でも 「一連の障害を通じて、システム全体を俯瞰でき、 かつ、多重障害の陣頭指揮を執り得るマネジメントの人材も不足していた」ことを指摘しています。 いずれのケースでも「事故や災害発生時に企業全 体を見ている人がいなかった」ということだと思います。 「木を見て森を見ず」といいますが、部分、部分 の対応ばかりに追われて、企業全体としていかに対 応するかが疎かになっていたと指摘されているのだ と思います。 私は、リスクマネジメント・BCM の実務におい て、企業全体を見るという視点が欠如しているので はないかと思います。私はこれを「経営的視点の欠 如」と言いたいのです。

2.都市銀行勤務時代の経険
このことに関しては、私が都市銀行に勤務していた時代の経険が参考になると思います。かつての銀行は貸出金利息収入と預金支払利息の差が収益の基盤でした。従って企業の倒産による貸倒れは銀行の 収益基盤を揺るがすもので、「貸倒れリスクの管理」 は銀行員にとって最重要課題でした。 銀行員は企業の経営状況を財務諸表や資金繰り表 (現在はキャッシュフロー計算書も含む)などで検討します。私は若いころ住友銀行の企業調査部門に 所属していました。当時は、住友銀行の OB で後に 朝日監査法人理事長、日本公認会計士協会会長になられた小澤修冶氏の「企業分析」( 春秋社 1956 年) がバイブルでした。この本は『財務諸表の計数の分 析にとどまらず、貨幣価値をもって表現できない外 的な経済環境とその変化、内的な経営の人的要素と その運営管理を含めて会社の実態を認識すべきである(序文) 」という考えの基に書かれた『定性的な 分析を加味した経営分析論の古典』というべき本です。これが住友銀行調査部の企業分析の伝統で、その後も 1983 年銀行研修社「最新銀行員の企業診断」 などの本にこの伝統が受け継がれています。 「企業の資金繰り(キャッシュフロー)は、企業の損益と勘定科目(例えば受取債権・在庫・支払債 務等)の金額の変動の結果」です。従って、企業の資金繰りを検討するには、 『損益計算書を見て企業 活動の資金の源泉である損益の状況を把握し、貸借 対照表を比較して利益によってもたらされた資金が どのように移動したかを検討すること』が必要になります。

企業の損益は、企業の生い立ち、歴史にも左右され、さらには経営者の優劣、事業の現況・将来、技術水準、営業力、従業員の資質等々により大きく変化します。結局「企業の資金繰りを徹底的に検討す るためには、企業全体を理解しなければならない』 ということになります。木も森も双方見なければなりません。

 私が、資金繰り検討の前提として分析していた企業の定量的・定性的項目の表を記します。 当時銀行の実務は多忙でしたから、すべての企業についてこれだけの事項を検討することとは不可能でした。従って貸出金額や問題の深刻度によって、 ある時は支店段階で、さらには専門の部署「事業調査部門」が分析検討をしていました。 資金繰り(キャッシュフロー)という一点を検討するについても、 企業の現状がどうなっているのか、 企業の全貌が把握できていなければ正当な判断はできません。

しかし、前記の表の項目を順を追って検討しただけでは結論は出ません。それは、各項目の分析結果に軽重がついていなければ、どこの部分は良い、どこの部分は問題となっても、結局企業全体としてどうなのか判断ができないからです。

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