2011/09/25
誌面情報 vol27
3時間以内に安否を確認
各社員が能動的に発信
NEC
東日本大震災では、携帯電話の基地局や通信ケーブルが被災するなど、通信インフラに大きな被害が生じた。地震発生直後は、安否確認の需要が急増し、一時的に電話や携帯電話の通話がつながらない状態が続いた。多くの企業が導入していた携帯メールの一斉配信による安否確認システムも、メールサーバの処理能力を超過し、大幅な遅延が発生した。
NECでは、災害時に通信が混雑することを見据え、独自の安否確認方法を構築してきた。今回の震災では、発生から3時間程度でほとんどの社員の安否が確認できたという。同社の安否確認の仕組みについて、同社事業支援部マネージャーの堀格氏に話を聞いた。
■システムは、より簡単に
仕組みは、いたって単純だ。震災発生時に被災地域にいる社員が、能動的に携帯電話のメールやインターネットを通じて安否を通知する。通常の一斉配信による安否確認システムでは「確認(送信)⇒連絡(返信)」の2つのアクションが必要だが、NECでは、連絡を一方通行にすることで、「連絡」のみの1つのアクションに簡素化していることがポイントだ。(図1参照)
今回の震災では、携帯事業会社によっては、震災直後、ピーク時に通常の50倍から60倍以上の通話があった(図3参照 総務省データ 2011年8月24日現在)。こうしたデータの急激な増大が予測される状況下では、できるだけ通信手段の利用回数を減らして、効果的に伝達することが求められる。安否確認のためにアクセスが集中する「非」被災地から被災地への連絡を省くことで、携帯電話のメールの遅延が大幅に解消できるのだと堀氏は話す。
送信するメールもシンプルな内容となっている。各社員の携帯電話には、あらかじめ緊急用に社員番号に相当するIDコード番号を打ち込んだメールのフォーマットが保存されている。
安否については、文字ではなくて2ケタの数字を使うことで早期の連絡が可能になるように工夫されている。例えば11と書かれていれば、最初の1は無事を意味し、2つめの1は会社に行けることを表す。これに対し、数字の2は危険、もしくは会社にいけないことを意味する。つまり、11(安全 勤務可)か12安全 勤務不可)もしくは22(危険 勤務不可)の3つ選択肢で連絡することができる。(図2参照)
IDコード番号を変えれば、他人の携帯電話を借りても連絡が可能だ。実際に、発災当時、電話を携帯していなかった社員の多くは、仲間の携帯を借りて連絡したという。送信されたメールは、自社の遠隔地サーバーに自動的にデータベース化され、個人や職場単位で、出勤の可否状況を社内のイントラネットやインターネットを通して閲覧が可能だ。地震発生から3時間で、安否の連絡は東北6県の約6800人の社員数を超え、1万件を超過した。連絡を求める対象基準である震度5強に達しなかった関東地域に住む社員からも連絡があったほか、地震直後の津波により状況が変化したことで2度連絡した者もいたという。
震災直後、被災者は震度がどれくらいかはわからない。それにもかかわらず、予定よりも多くの社員から連絡がきたことは、各社員が災害時に何をすべきか判断できたことを意味する。「2006年から年に2回、訓練を続けてきた成果です」と堀氏は話す。
■カードリーダーで安否を確認
オフィスや工場など各施設における社内の安否確認にも工夫している。高層ビルなどの巨大な施設では、点呼による安否確認は非効率となる。エレベーターが動かない状況下で、担当者が各フロアの各部門を訪問し、正確な社員数を確認するにはかなりの時間と労力を要する。そこで同社では、通常時の出退出のセキュリティ用として使っているIDカードを安否確認に利用している。
「構内・ビル内に入場する際、社員は社員証を、お客様や業者の方は訪問用セキュリティカードを入場口のカードリーダーにかざしています。これにより構内に在籍している人を把握しています」(堀氏)。地震が発生した際には、その場所から最も近くにあるカードリーダーにIDカードをかざすように社員には普段から徹底している。読み込まれたデータはすぐに、社内のサーバーに蓄積される。これにより、社内のどこにいるかまで迅速に把握できるというわけだ。
今後も同社では、訓練を継続的に実施することで、災害発生時には、より迅速な安否確認を目指していきたいと話している。
誌面情報 vol27の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方