■よりリアルな実験環境を目指して

しかし、実験は実験、あくまで仮想の環境でAIが地震を予知できるとしても、それだけでは十分に喜べないことも確かです。暗闇の中でパッと輝く光はどんなに小さな光でもまぶしく感じるものですが、実際にはどれだけの実現可能性を秘めているのでしょうか。

専門家は、実験室と現実の地震とではさまざまな相違点があることは確かだが、実験環境と似たような系に適用してスケールアップしていけるのではないかと期待しています。そう言えば、アメリカにも日本にひけをとらない危険なエリアがあります。1906年と1989年にサンフランシスコ付近で大地震を引き起こしたサンアンドレアス断層がそれです。また、太平洋岸北西部のカスケード断層も過去に大地震や大津波を発生させています。専門家はこれらの断層で起こる小さな地震が実験室でのシミュレーションに近いことを挙げ、期待の根拠としていると記事は伝えています。

いつどこで地震が起こるのかを音響パターンでとらえるわけですから、もしこのAIが実用化されれば、いろいろと用途が広がるでしょう。狭い国土と急峻な地形を持つ日本の自然環境で、さまざまな崩壊の音のパターンを機械学習に学ばせれば、山崩れや土砂崩れ、火山の噴火、雪崩発生のアラートにも応用できるのではないでしょうか。

AIの特徴である機械学習と高速の計算処理が行えるコンピュータ、膨大なデータセットが三位一体となれば、さしもの偶発的事象の典型である地震も、人類の最大の挑戦の一つであった「予知」に屈する時が来るのかもしれません。今後の展開が楽しみです。

(了)