2018/12/19
防災・危機管理ニュース

サイバーセキュリティ製品を開発・販売する米国のパロアルトネットワークスは18日、東京都千代田区の日本法人で記者ブリーフィングを開催した。同社の脅威調査専門チーム「Unit 42」でスレッドインテリジェントアナリストを務める林薫氏が、日本国内外の今年のサイバー攻撃の振り返りと2019年の脅威予測を解説した。
世界150カ国以上でサービス展開する同社が、サービス提供を通じて得たビッグデータを基に分析を行った。これによると同社が1~11月末までに検出したサイバー攻撃を分析したところ、国地域別の攻撃検出数は、世界規模で展開するICT企業が集まる米国が最も多く、次いで日本が2番目に多いことがわかった。

3位ブラジル、4位イタリアと続いた。日本に対する攻撃が多い理由として、林氏は「日本、ブラジル、イタリアの3カ国では、それぞれサイバー犯罪者によるばらまき型攻撃が年間を通じて発生している」と説明した。産業別検出数では、ハイテク、専門・法律サービス、教育、卸・小売の順に多かった。
また全分析セッション中における、未知マルウェアの割合については、時期によって短期的変動はあるものの、年間平均では世界が2%、日本が1.7%とほぼ一定比率を保っているとした。

文書ファイル攻撃が8割超に
今年多く見られた攻撃として、「文書ファイルを使ったビジネスメール詐欺」「ランサムウェアから仮想通貨採掘への移行」「商用マルウェアを使ったビジネスメール詐欺」の3点を挙げた。
ビジネスメール詐欺については、かつて「.exe」形式の実行ファイルをメール添付するものが主流だったが、2017年以降はマイクロソフトのWordやExcelなどOffice文書ファイルに埋め込まれたマルウェアが急増してていると指摘。日本国内においては、1~11月までにメールで検出されたマルウェアのうち、文書ファイル形式が85%を超え、実行ファイル形式の6.1倍に達し、世界と比較しても比率が突出していることがわかった。
また攻撃手法も、特定企業のネットワークに侵入後、長期間潜伏して社内メールの文脈を読み込み、決済権のある社員に偽の請求書を送付するなど、巧妙化が進んでいるという。

またサイバー攻撃の産業化が進んだことで、低価格や無料で入手可能な商用マルウェアを利用してビジネスメール詐欺を企む例が増えているとした。例えば「FormBook」というサイトでは、1週間に70ドル(約7800円)を払えば、誰でも加工済みの未知マルウェアを手に入れることができ、攻撃を仕掛けることができてしまうという。

また新たな傾向として、仮想通貨の市場価値がピークに達した2017年末から今年にかけて、ランサムウェア攻撃と仮想通貨採掘で検出数が逆転していることから、林氏は「ランサムウェア攻撃から仮想通貨採掘への移行している」と分析した。仮想通貨採掘は、直接的に企業に金銭的被害を受けるわけではないが、感染したPC端末のCPUやメモリを勝手に使われることでPCの作業効率が落ちるほか、同様の侵入口から新たな攻撃を仕掛けられるリスクも高まる。

日本で国際イベント集中、標的に注意
2019年の脅威予測についても発表した。2019年の傾向として林氏は、「仮想通貨を狙った攻撃の継続」「日本の重要インフラを狙った破壊型攻撃」「『見えない攻撃』の拡大」「流出した個人情報の悪用」「クラウド利用による事故被害の増加」の5点を挙げた。
とくに「見えない攻撃の増大」については、エンドポイント側からファイルスキャン検出を回避する「ファイルレス攻撃」が増加すると予測。同時に今後はネットワーク側からも、攻撃自体にSSL/TLSの暗号化が掛ける、画像データに悪意のあるコードを埋め込む、コンテンツの共有・公開サイトから暗号化した悪意データを配信する、など新たな検出回避手法が開発されていくことを警戒した。
また2019~2020年にかけて、日本ではラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックなど世界中が関心を集める大規模イベントが多数開催される予定であることから、林氏は「ハクティビスト(政治的な目的をもってハッキング行為を行う者)が活動する動機は多い」として、国内の重要インフラ事業者を中心に、サプライチェーンを含めたセキュリティ強化や、代替バックアップを持つなどBCP(事業継続計画)の構築を呼びかけた。
■Unit42チームのブログはこちら
https://www.paloaltonetworks.jp/company/in-the-news/2018/2018-playback-2019-prediction.html
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
- keyword
- サイバー攻撃
- パロアルトネットワークス
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方