2019/02/07
AIブームとリスクのあれこれ
■不老長寿・脳・意識
話は変わりますが、グーグルがCalicoという会社を設立し、老化の原因を突き止めるためのプロジェクトを進行中との見出しを見たのは2016年頃だったでしょうか。そこには風呂敷か本気か分からないけれど、人間の寿命は100歳、いや500歳まで延ばせるとのインタビュー記事も載っていました。今日のように高度に科学が進歩すると、現実のことなのかサイエンスフィクションの話なのか、古い人間の僕にはほとんど区別がつかなくなってきます。
Calicoの場合は医療や医薬分野の研究を指していますが、中には冒頭で述べたような脳内の現象を電子的に機械に移植できると本気で考えている科学者がいることを知り、思わずその人の書いた本を手にとってしまいました。「脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦」(渡辺正峰著、中公新書)という本がそれです。よくあるAIにも意識は宿るといったようなストレートな話ではなく、あくまで脳神経科学の立場で人間の意識の正体やその機械への移植可能性について論じた内容ではありましたが。
この本で脳神経学者の著者は「人間の意識を機械に移植できる日は必ずやってくる。もしそれが実現したら、自分は機械の中で生き続けることを選ぶ」という趣旨のことを述べています。こうなると、もはや究極の不老長寿的野望ですね。すごいことだ!と筆者は思いました。しかし同時に、次のような不思議な思いや疑問が胸中を去来したことも確かです。
例えば、肉体を持たない「意識」だけがコンピュータで制御された機械の中にセーブされているとはどんな状態なのだろう、と。筆者はどうしても昔からSF映画にあるような、空調の効いた無機質な部屋の真ん中に、1台の機械がひっそりと設置されている状況をイメージしてしまうのです。そこに人間の意識が宿っているなんてまったく想像できません。
筆者にとっての「意識」とは、自分の意思で歩いたり走ったりして風を感じ、暖かさや寒さを感じ、他人の顔や表情を識別し、美女を見ればドキドキし、自分の望む食べ物を口にしておいしいと感じ、お金がたくさん手に入れば気分が高揚する…。このように外界の刺激を受け止める「肉体」があってはじめて、自分の中に生まれる現象だと思えてなりません。
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
- 第12回(最終回):不老長寿はAIで実現!?
- 第11回:AIと山火事の発生予測
- 第10回:地震への迅速な対応を指南してくれるのは…
- 第9回:AIで地震は予知できるか?
- 第8回:AIを使って犯罪をどこまで未然に防げるか?
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方