2019/03/12
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
また図1は過去12カ月間に経験した脅威の評価結果を同様にまとめたものである。ただしこちらは実際に経験した脅威であるため、横軸が可能性ではなく頻度(Frequency)となっている。
これら2つのマトリクスを見比べると、これまで経験した脅威と今後に対する警戒との違いがよく分かる。
例えば「規制の変更」(Regulatory changes)や「政治に関する変更」(Political change)が、図1では左上(影響大、低頻度)にあったものがトップ画像では右下(影響小、可能性高)に移っている。恐らく欧州からの回答が多いために、Brexit の影響が警戒されている結果が現れているのであろう。また、「IT・通信の途絶」の位置があまり変化していないのに対して「サイバー攻撃とデータ漏えい」が図1の右下(影響小、可能性高)からトップ画像の右上(影響大、可能性高)へと変化しているのも興味深い。
なお、ここで「影響」については必ずしも金銭的な影響だけとは限らないが、本報告書では金銭的な影響について独立したセクションが設けられている。これも従来の Horizon Scan Report にはなかったものである。本報告書によると、実際に経験された脅威による金銭的損失の合計額が最も多かったのは「健康および安全に関するインシデント」(Health and safety incident)、次いで「レピュテーションに関するインシデント」(Reputation incident)となっており、これらが突出して大きい。
しかしながら大企業と中小企業では状況が大きく異なる。図2は最も金銭的損失を生んだ脅威が何だったかを企業規模別にまとめたものである。これを見ると「レピュテーションに関するインシデント」が下側の大企業(Large Business)では 2位となっているものの、上側の「SMEs」(small and medium enterprises の略であり中小企業のこと)ではランク外となっており、レピュテーションが主に知名度の高い大企業ならではの脅威であることが明らかに現れている。また「IT・通信の途絶」は中小企業では金銭的損失をもたらす脅威のトップとなっているが、大企業においては4位となっている。恐らく他の脅威と比べて、また企業規模に対して、金銭的な影響が相対的に小さいということであろう。
本報告書では他にも、ISO22301の活用状況(認証を取得しているかどうかは別)やBCMに対する投資額の変化など、世界的なBCMの現状を知る手がかりとなる様々なデータが記載されている。過去の同報告書と見比べながらお読みになることをお勧めしたい。
■ 報告書本文の入手先(PDF40ページ/約3.4MB)
https://www.thebci.org/resource/horizon-scan-report-2019.html
注1) BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/
注2) Horizon Scan について、BSIは危機管理に関する「PAS200」という公開仕様書で「新たなリスクを創出したり、既知のリスクの特性を変化させる可能性のある、潜在的な脅威、機会、および将来の変化に対する、系統的な調査」と定義している(和訳は筆者)。もともとはヨーロッパの医学界や食品安全等の分野で用いられ、近年では政府や企業にも採用されつつある手法のようである。
注3)本連載では 2018年3月13日に2018年版を(http://www.risktaisaku.com/articles/-/5276)、2017年2月27日に2017年版を紹介させていただいた(http://www.risktaisaku.com/articles/-/2435)。また、かつて紙媒体の『リスク対策.com』2014年9月発行vol.45で、2014年4月に公開された2014年版を紹介させていただいた。
(了)
- keyword
- 世界のレジリエンス調査研究ナナメ読み
- BCM
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方