大槌小学校入り口から見た町の光景(2011年12月15日筆者撮影)

 

セキュリティーがハードルになる

これまで見てきたように、シンボル資本の回復(今回のケースの場合は大槌町の町長)には、非常に複雑な行政プロセスが必要となりました。このプロセスは、経済資本(サーバー)、組織資本(データやマニュアル)の両方の機能に依存していました。住基ネットは、住民の住所や生年月日といった個人情報を扱うというシステムの性格上、セキュリティーのかけ方が複雑で高度な構造となっており、いざ再構築しようとした際、セキュリティーがハードルとなるというジレンマも発生しました。
大槌町が失ったのは町長だけではありません。多くの職員が被災しました。人間資本が失われると、その人が保有していたノウハウや知識も同時に失われます。大槌町に限らず、多くの被災自治体が、職員を失い、他の自治体に応援職員を要請することになりました。日頃付き合いのある自治体に応援を要請する自治体もあり、ここでも社会関係資本の働きが観察されました。情報システムの運用に関しては、個人(人間資本)の中に蓄積された暗黙知によるところが大きく、町の外から来た応援職員がスムーズに業務に参画することが難しい、といったケースもありました。人間資本が喪失した場合のプロセスについては、前回の経済資本や組織資本の喪失時の対応同様、事前に対応を定めていた自治体はありませんでした。

まとめますと、公共部門における人間資本およびシンボル資本の喪失は、法的あるいは公的に決められた要件に沿った形でカバー する必要がある、ということがお分かりいただけるかと思います。シンボル資本の回復には、さまざまな行政プロセスが必要となり、復旧プロセスに与える影響は大きくなります。
公共部門、と言っていますが、民間企業においても同じことが言えると思います。皆さんの企業では、人間資本やシンボル資本の喪失への対応について、どのように定められているでしょうか。

* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review, vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。

(了)