乾燥していた屋根の木材

パリ消防局によると、出火原因は不明だが「木でできた鐘楼の骨組みに火が到達していれば、屋根を支え合う柱が連鎖的に力を失い、崩落が起こる可能性があり、大聖堂全体が失われていた可能性がある」と記者発表した。

フランス国内の歴史建造物を研究している専門家の話によると、大屋根を支えていた、約1300本の屋根材について、「800年以上前から設置されていた木材で非常に乾燥していた。季節的に湿気もなく、何らかの火源で火災が発生すると大火になる」と述べて、極めて燃えやすい状態だったという見解を示した。

大聖堂は主に屋根部分の大規模改修工事のため、教会建物や尖塔の周りに縦約30メートル×横約120メートルの大がかりな足場が築かれており、火災発生を通報した工事関係者の情報などから、出火元は屋根裏だった可能性が高いとコメントしている。

1.サルベージ隊による「財産の保護」活動
ノートルダム大聖堂の火災発生時、パリ市消防局消防指令センターは、先着隊の消防士たちと現場出動中の各隊に観光客の避難誘導と火災延焼防御警戒線の設定、消防活動(放水圧力、放水量、破壊など)上における文化財損傷への注意など、国宝級の歴史的財産の保護を呼びかけた。

サルベージ隊の消防士たちは、屋根材などが次々に焼け落ちてくる炎上中の現場から、国宝級の貴重な芸術品などを運び出して焼失を防いだ。また、建物外部には、財産用のトリアージエリアが準備され、複数の学芸員やカトリック神父などが仕分け作業を行って損傷状態を評価し、タグ付けされた後ルーブル美術館に搬送され、保管されることになった。

奇跡的に十字架にかけられたイエス・キリストが着けていたものとされる「いばらの冠」も無事だったことは、カトリック信者の多い、パリの消防士たちも悲しみの中から希望の光が見えたとコメントしている。

パリ市内では16日夜、大勢の市民や世界各国から訪れている観光客らが集まって祈りをささげ、希望を意味する讃美歌を斉唱した。また、マクロン大統領は16日夜のテレビ演説で、「ノートルダム大聖堂を再建して一層美しくする。5年以内に完成させたい」と力説したが、歴史的建造物の修復に詳しい建築関係者は10年はかかる見通しだとインタビューで述べていた。

2.歴史的建造物の消防活動の困難な課題
パリ市消防局を代表して、現場で大隊長として指揮を執った、フィリップ・ディメイ氏が、ノートルダム大聖堂における下記の様々な体験を今後の歴史的建造物の消防活動の課題として話している。

・何よりも聖堂内の数千もの絵画や石像、ステンドガラスや彫刻などの歴史的な財産を失わないように、放水対象物ごとに放水圧や消火方法を変えさせたり、絵画などは放水圧と水損を必要以上に与えないよう、広範囲な場所で同時に放水活動を行っている。数百名の隊員たちへ周知するのに苦労した。

・建物外部に持ち出せる財産はサルベージシートを部屋ごとに分けて、可能な限り、どこに何があったか分かるよう慎重に持ち出し、また石像など重量物で落下物による損傷が予想されるものは、複数の消防士で安全な場所へ移動した。

・火災発生時、ノートルダム大聖堂の礼拝場部分といくつかの部屋付近、建物周囲には観光客がいたようだが、警備員と関係者の避難誘導により、迅速に建物全体に落下物や飛散物を予測した範囲に火災警戒区域を設定していた。しかし観光客によっては誘導に従わず、またはフランス語や英語を理解しておらず、スマホで撮影したり、火災を背景に記念写真を撮影したりと混乱した状態であった。

・大聖堂は改修中で、屋根の大部分は改修作業用の足場で覆われていたが、過去にも改修中の歴史建造物でさまざまな人的事故や火災が起こっていることから、管内の消防士へ注意喚起を行っていたが、まさか、本当に起こるとは思ってもみなかった。

・火災急性期時、屋根部分が激しく炎上しており、次々と燃えた状態の屋根材などが落ちてきて、聖堂内の木製の椅子や床などありとあらゆる可燃物に猛スピードで延焼していった。

・地上から尖塔まで高さ90メートル、屋根材まで80メートル近くあったため、40メートル級のはしご車を数台で、風向きを利用し、届く範囲の放水を実施。通常の放水手段では届かず、120メートルの高圧放水が可能なロボットを使った。

・建物内も隣接建物も輻射熱が激しく、屋内進入して複数の火点に直接放水するような火災防御は極めて困難な状態であったため、放水圧とノズルを選択して、延焼が予想される場所への冷却放水を行った。

・建物周囲の水利が限られていて、複数の分岐を使用したことから、放水統制を行うのが困難だった。

・建物の部分によっては、新しく改修された壁の断熱材からなるサンドイッチパネルと屋根で構成された箇所は、耐火壁として適切に構築されているようだったが、どのように耐火区画されているのか? の判断が非常に困難だった。

・歴史的建造物の耐火区画は耐煙区画ではないことが多いことを再認識した。

・さらに屋根部分の火災の燃焼エネルギーが激しく、焼け落ちてきた屋根材が、石の壁や孤立した壁など、高温の炎と冷たい可燃性ガスによる火が次々と隔壁を越えて延焼拡大していた。古い建物は壁越しに仕切られていても隙間が多いため、隣接する区画の壁および屋根への延焼もチェックする必要がある。

・仕切り壁が耐火であったとしても、耐煙ではないため、耐火壁の割れ目やつなぎ目、また建物内のあらゆる種類のシャフトやダクト効果を果たしている部分を通って、可燃性ガスや煙が広がっていた。

下記のYouTubeのリンクで、フランスで放映されたノートルダム大聖堂の火災における消防活動全体についての振り返り、実際に消火活動した消防士たちの火災防御活動体験談や困難な状況に対する工夫を見ることができる。

https://www.youtube.com/results?search_query=notre-dame+de+paris+pompier