2020年5月16日(土)午後6時26分、ロサンゼルスのダウンタウンにある327 E. Boyd St.で構造物火災が発生しているとの通報を受け、LAFD(ロスアンゼルス市消防局)が出動した。

指令から4分以内に先着隊が現場到着したところ、1階建ての商業ビルから煙が立ち上っていることを覚知した。早朝で、営業していなかったため、消防士がエンジンカッターを使って、店舗のシャッターを開け、屋内への放水と進入準備を行った。

空気呼吸器の面体を着装し、1階部分の屋内消火活動を開始すると同時に、はしご車隊と後着隊を屋上に向かわせ、垂直ベンチレーション(火点直上排煙を行うための開口部作成)を行い、屋上の活動隊員が、消火活動を続けているうちに、突然、黒煙の量が増え、甲高い音が聞こえてきた。

建物内部から、大きな爆発音が聞こえ、屋上の消防士達は火災状況の変化を察知し、活動環境が急速に悪化したため、屋根上で指揮を執っていたキャプテン ビクター アグアイアー氏が、「メーデー、メーデー、足下から巨大な爆音が聞こえたため、退避する」という至急報を入れ、無線を終えた瞬間、予め緊急避難ルートとしていた、はしご車に飛び乗って急いで逃げるよう、11名の全隊員に指示し、自分は最後に脱出した。

その直後、次々に大爆発が発生し、はしごを使って屋上から降りてきた消防士を包み込むような大規模な火の玉が発生した。焼け付くような熱はヘルメットを溶かし、防護服やフードを燃やし、はしご車の電気ケーブルは火炎による高熱のため油圧が急激に上がったためか動作不能となり、消防車両の塗装は燃えて膨れ上がり、剥がれ落ちた。

このような危機に直面しながらも、キャプテン ビクター アグアイアー氏は、全身火傷を負いながら、屋根上の活動隊員が全員避難するまで、「First In -Last Out(最初に現場進入して、最後に退出すること)」を貫き、一番最後に避難したことが、現場指揮者の鏡だと世界の消防関係者から賞賛されている。

 

ロサンゼルス市消防局の広報官、キャプテン エリック・スコット氏によると、爆発燃焼発生後、高さ約20メートル、幅30メートルの激しく燃えさかる火煙の中をくぐり抜け、はしご車を使った脱出時に消防士12人がやけどを負い、ロサンゼルス郡USC医療センターに救急搬送されたと、メディアへ現場速報を伝えた。

 

また、救急車で搬送する前に脱着した消防士のヘルメットは、火炎の高熱で溶けて変形し、防火衣は黒焦げて破けた状態、空気呼吸器も面体やホースが溶けて、元の形が分からない状態だったため、爆燃により、80キロワットの熱量(約1000度)を緊急退避した消防士たちが、曝露してしまったことが予測できると語った。

火災当日、16日夜の時点で、4人の消防士は「3度熱傷」のため集中治療室で治療中で皮膚移植などの可能性、2人は気道熱傷のために人工呼吸器を使用しながら体のやけどを治療中、他の5人の消防士は上半身に軽度や重度までさまざまなやけどを負っているという。

LAFDの医療責任者であるマーク・エクスタイン博士は、あれだけの火炎の中を緊急脱出した映像を見ても分かるように、ヘルメット、防火衣、手袋、空気呼吸器などの個人装備は、焦げて使えなくなったが、しっかりと隊員の命を守ってくれたと語った。