2016/05/23
講演録
TIEMS日本支部第10回パブリックカンファレンス
福島第1原発事故への消防対応
~ 特殊災害への備えと対応 ~
一般財団法人全国危険物安全協会理事
(元東京消防庁警備部長)佐藤康雄氏
私は東日本大震災で、福島第1原発の燃料庫貯蔵プールに大量かつ継続的に水を注水して処理するというミッションを担当しました。そのうち、以下の3つについて話したいと思います。1つ目は消防から見た原子力災害。消防というのはエネルギーコントロール業務だと私は考えています。2つ目は特殊災害の心得、3つ目は逆境に強い人材育成、危機管理体制の構築についてです。
まず1つ目について。原発というのは、基本的には原子力災害対策基本法で電力事業者、または国で対応すると明記されており、自治体消防が対応するとは書いていません。消防としては業務外ですので、全く訓練も計画もしていませんでした。また、震災直後でしたので非常に混乱しており、情報も全く入って来ませんでした。
そのような状況のなかでどのように対応したかというと、まず消防にとって何が難しくて何が優しいのか、何ができて何ができないのかを、自分たちの人員や資機材の状況を鑑みて分析しました。私たちは普段から、火薬や石油などさまざまな物質に対応しているので、それを応用しています。議論の末、3つの戦略を立て、荒川の河川敷で訓練を行いました。この時に最も大きな問題は時間との勝負でした。原発には近寄らなくてはいけませんが、被爆を避けなければいけない。そのためには時間との勝負ですので、風向きや有効射程について検証訓練を行った後に、現場に駆けつけました。
消防が対応する災害と原発災害を比較してみましょう。消防は、石油コンビナートや倉庫の爆発火災、デパートの火災など多岐にわたり、現場が特定されません。それに対して、原発は完全に特定ができます。また、管理人も通常は特定するのが難しい場合もありますが、原発は管理人が決まっています。発生頻度は、もちろん原発災害は非常に小さいものとなります。しかし、原発災害は発生してしまえば、その危険度の高さは甚大です。消防は、常に事前準備をしながら災害と立ち向かってきました。今回の原発災害では事前準備は十分にできませんでしたが、それでも普段の鍛錬があったから対応ができたのだと思います。今後は、原発に対する事前準備と鍛錬の強化が最重要課題になるでしょう。
ではなぜ、消防は原発被害の現場に駆けつけることができたのか。消防は公務ですから、法律の根拠がないと動くことはできません。原発災害は現行法では勤務外です。しかしこれに対して阪神・淡路大震災後の2003年、消防組織法が改正され、消防庁長官の緊急消防隊の出動指示というものができていました。ここで、地震災害、その他の大規模な災害または特定物質の発散、その他政令で定める特殊災害に対処するために、消防庁長官が全国の4500隊の緊急消防援助隊に出動命令をかけられることが定められていました。原子力と明記はされていませんでしたが、「政令で定める特殊災害」がこれにあたるということで、法的根拠ができたわけです。これは非常に先見の明のある政令だと思っています。
最後は逆境に強い人材育成、危機管理体制の構築についてです。私は、訓練は決められた手順に従ったPDCAではなく、AETE(Awarenes:気づき、Education:教育、Traning:トレーニング、Exercises:演習)が重要だと話しています。すなわち、単にシナリオを作って手順書どおりやればよいということではなく、訓練を通じて今まで気がつかなかったことに気づく。それに対して教育して、トレーニングして演習するという考え方です。手順にない変化に気づき、その変化への対応を考えるのが指揮者への訓練で、危機の時に大事になると考えています。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方