2012/03/25
事例から学ぶ
5年がかりで「機能する災害対策本部」を作り上げてきた市がある。日本最初の都城、藤原京が造営された ことなどで知られる奈良県橿原市だ。情報収集の効率化と共有できる仕組みを追求し、危機発生時にも常に 先手が打てる体制を構築してきた。
2月7日、橿原市で、5年間の集大成とも言える 災害対策本部の図上訓練が行われた。奈良県北部を 震源とするマグニチュード 7.5 の直下型地震が発生 し、橿原市で震度7を観測するなど、県内の広い範 囲で強い揺れに見舞われたという想定のもと、災害 対策本部の対応をシミュレーションした。
橿原市は、本庁舎が被災して使えなくなることも 想定し、市内の文化ホールに災害対策本部を設置す ることにしている。本部支援室のレイアウトは図1 の通り。別の部屋に、本部会議室が設けられること になっている。
支援室は、各部長、班長が定期的に情報共有する ための調整会議用のテーブルが先頭にあり、次に作 戦本部にあたる統括本部班、情報班、資源管理班・ 庶務班がくる。それより後ろ(図では右側)は、いわゆる事案処理部隊となる。
■幹部の戦略判断を鍛える
一般的な訓練では、被害状況などあらかじめ付与 された情報に基づいて、防災計画や災害対応マニュアルに沿った対応がとれるかを確認することが多い が、今回行った訓練は、まず、市長が達成すべき目 標を掲げ、それに基づき各部班が目標を設定し、それを達成するために何が必要になるのか、誰が対応するのかを考えた上で、 必要な情報を能動的に収集 ・ 処理しいくというもの。後手、後手になりがちな危 機対応で、常に先手を打てるよう、部長や班長など 幹部の戦略判断を鍛えることを目的に掲げている。
被害状況などは、訓練の参加者には知らされてい ない。危機管理課の担当職員がコントローラーと呼 ばれる訓練の進行・管理役を務め、各部班から問い 合わせがあったこと(把握できている被害の状況や 外部機関の対応状況など)に対して、時間経過に応 じたさまざまな情報を付与していく。各部班は、他 の部班との調整も図りながら各部長、各班長が、対応を決定していく。
当日は、災害発生から3時間が経過し1回目の災 害対策本部会議が終了した時点との想定で訓練がス タート。冒頭、森下豊市長が5つの目標を発表する と、各部では、それぞれの長の指示にしたがって目 標設定、情報収集などの作業に当たった。
市長が発表した5つの目標(要約)
●災害応急活動が円滑に行えるよう、関係部局は情報の収集を 迅速に行い、被害状況の把握に全力を尽くす。
●人命の救助を第一に、被災者の救援・救助活動、消火活動等 の災害応急活動に全力を尽くす。
●被災地住民の生活回復のために上下水道部は早期復旧に全力 を尽くすとともに、電気、ガス、通信などのライフラインや、 公共交通網の復旧状況把握に全力を挙げる。
●応急対応に必要な医療物資、食料、飲料水、および生活必需 品の確保に全力を挙げ、全国からの支援に対応できる体制を 確保する。ただし、一般からの救援物資はお断りをする。
●市民をはじめ、奈良県などと連携できるよう、的確に情報を 提供する。
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