河川や池、鉄道などを地図上に書き込み、地域の特性を把握。地図の上にビニールをかぶせ、繰り返し使えるように工夫している

「あなたが主役!市民一人ひとりが地域の防災リーダー」。こんなキャッチコピーで、防災に必要な知識を市内の在住者や在勤者に幅広く身に付けてもらう市民講座が埼玉県蕨市で開かれている。

その名も「わらび防災大学校」。初級編4回と中級編5回の計9回の講座を通じて、防災の基礎知識や地域の危険性、避難所の運営方法、救助救命などを学ぶ。今年5月に開校し、これまで既に140人以上が受講した。昼の部の開催にあたっては小さな子供を預かってくれるサービス付きで、若い主婦の参加も目立つ。

わらび防災大学校は、防災士の資格を持つ会員15人でつくる蕨防災士会が企画し運営を担う。蕨市が平成25年度から実施している「蕨市協働事業提案制度」に応募し今年4月に採択された。

今年度は、初級編4講座、中級編5講座を各3回開催する。市からは年間約20万円の委託費用が出ているが、パンフレットなど印刷費や経費などに充て、講師は全員が手弁当。受講料は無料だ。

初級編、中級編それぞれ全講座を受講すれば蕨防災士会から終了証がもらえる。防災士の資格までは取得できないが、防災に必要な知識を体系的に学び取ることができるという。

初級編の内容は①座学(埼玉県が推進するイツモ防災※地震への備えを日常的な視点で進めるための基礎知識)、②災害図上訓練(DIG)、③避難所開設訓練(HUG)、④普及救命講座。中級編は、①災害の仕組み・過去の災害の知識、②災害図上訓練(Ⅱ)、③避難所運営訓練(Ⅱ)、④消火・救助法、⑤BCP・地域防災計画といった内容で構成する。平日の昼と夜、日曜日に開催しており1回の講座が2~3時間。

内容は、埼玉県が行っている自主防災リーダー養成講座を参考に、市民が参加しやすい訓練やワークショップを取り入れるなど独自にアレンジした。参加者が多いため、防災士会のスタッフが交代で講師を務める。

6月22日に開かれた災害図上訓練(DIG)訓練では、市民ら35人が参加。7班に分かれ、それぞれが大きな地域の地図を囲んで、地域の危険な場所、公共施設、公衆電話やAEDなど災害時に必要となる資源のある場所などを地図上に書き込み、地域の状況を確認した。

その後、ある地域で火災が発生したとのシナリオで、周辺がどのような状況に陥るか、その中で誰を優先して助けるべきか、何を優先して行うべきかをグループ内で話し合い、最後に各代表が発表をした。

参加した60代の男性は「普段は店を経営していて防災の勉強会などに参加できないが、町内会の会長をやっているため、防災の知識は身に付けておく必要があると思っている。夜間に開催してくれるので出席しやすい」、スポーツインストラクターをしているという女性は「(スポーツクラブには)高齢者や小さな子供も多く、いざという時の対応を学んでおく必要がある。東日本大震災では建物のエレベーターが止まり、適切な行動ができなかった」、民生委を務めている女性は「災害時に高齢者の対応をしなくてはいけないことが常に頭にある。講座で基本的な知識をしっかり身に付けたい」とそれぞれ参加の目的を話してくれた。

蕨防災士会会長の矢口弘氏は「熊本地震があったこともあり、市民の意識は高い」と語る。

蕨市は面積が5.11㎢で、日本で最も小さい市。人口は7万3000人で、東京23区を除けば人口密度も最も高い。木密と呼ばれる木造住宅の密集地が市の大半を占め、建物の倒壊や大規模な火災が危惧される。隣の川口市を流れる荒川が決壊すると3m近い浸水も予測され、想定すべきリスクは多い。

市では、平成25年度から独自に自主防災育成事業として市民を対象にDIG訓練と避難所運営のHUG訓練を受講してもらう取り組みを3年間続けてきた。

市安全安心推進課課長の小柴正樹氏は「従来は土曜日のみの開催で、町会からの参加者が中心となっていた。今回は平日の昼と夜、休日に開催してくれるので市民も参加しやすく、市民や市内在勤者が自主的にこれほど多く集まってくれることに驚いている。参加者が家庭や地域でこうした取り組みを広め自助から共助につなげてほしい」と期待を話す。

(了)