2012/05/25
誌面情報 vol31
東日本大震災後の深刻な電力危機に対し、東京電力では、日本はもとより世界各国から緊急用の発電施設を誘 致し、電力の供給力の確保を進めている。英発電機レンタル大手のアグレコ社もその1社。日本とは規模が異なる世界の視点から発電機ビジネスを取材した。
■100 カ国以上に発電機を供給
アグレコは、スコットランドの首都グラズゴーに本社を置く。50 年以上の歴史を持つ世界最大のレ ンタル発電機会社だ。本拠地であるヨーロッパと北 米を中心に、中東、アフリカ、アジアなど、先進国 から新興国まで世界各地に約 150 カ所の拠点を持 つ。同社の発電機は、本拠地のスコットランドで生 産されている。
発電機と言っても、その規模は可搬タイプから超 巨大なものまでさまざまだ。建設現場をはじめ、オリンピックやサッカーワールドカップなどのイベン ト会場、 映画の撮影場、 発電所への緊急の電力供給、 あるいは後進国などにおける開発全体を支えるよう な電源供給など、あらゆる現場に、迅速に対応できるのが同社の最大の強みだ。燃料についてもディー ゼルでもガスでも両方に対応できる。昨年1月に オーストラリアのブリズベンで発生した大洪水や同 年2月のニュージーランドでのクライストチャーチ 地震でも、同社の発電機が利用された。日本では、 2002 年の日韓ワールドカップのイベント会場で報 道機関の中継用の電源として同社の発電機が導入さ れた実績がある。 「東京電力とは、ワールドカップ を通じてお互い知り合った」と同社最高経営責任者 (CEO)のルパート・ソームス氏は話す。
■常陸那珂と袖ヶ浦に設置
東日本大震災では、東京電力からの要請を受け、 震災翌月の4月4日に 200 メガワット規模の発電機のリース契約を結んだ。同年6月中旬に、茨城県の 常陸那珂火力発電所に 100 メガワット規模のディー ゼル火力発電機を、7月には千葉県の袖ケ浦火力発 電所に 100 メガワットのガス火力発電機をそれぞ れ設置した。どちらの発電機も1機が1メガワット の発電容量を持つコンテナ型で、それぞれトラック で約 100 機を調達し、簡易発電基地を建設した。常 陸那珂は、2012 年の3月末で契約が終わり撤去し たが、袖ヶ浦については 2012 年の7月までは設置 されることになっている(その後は未定) 。2拠点 とも火力発電施設の電力供給が極端に減少した場合 や、電力需要が高まる時間帯に、電力を供給してい るという。
東日本大震災で被災した福島第一原発の原子炉1 基の出力は 460 メガワット∼ 1100 メガワット。今 回設置された2機の発電量を合わせると、原子炉 1 基の最低発電量の半分近くも賄える。 「東京電力管 内全域の最大出力 6450 メガワットと比較すればそ の約3%にすぎないが、200 メガワットあれば、おおよそ6万世帯の電力をカバーできる」と同社ビジ ネス開発アジア担当ディレクターのブラーノ・コラー氏は話す。
■今夏の電力対策を準備
昨年は、国を含め一般家庭から民間企業に及ぶ節 電対策を実施して、電力不足を乗り越えた。今年は 現在すべての原発が止まっている状態で今のところ 再稼働の見通しが立っていない。ソームス氏は、「日本の多くの企業と、この夏の電力危機の対策につい て検討している。 我々は最適な発電機を供給できる」 と話している。すでに、国内のある大手企業とは、 発電機供給の契約を結んでいるほか、多くの企業からの問い合わせがあるという。
同社の製品は、コンテナ輸送により現地で組み立 てられるため、据え付ける場所があれば、すぐに設 置ができる。通常、 火力発電所を建設するとなれば、少なくても2∼3年かかると言われているが、同社 の発電機は組み立て式のため、同じ規模でも設置期 間を大幅に短くすることが可能だ。 袖ヶ浦の例では、 契約から約 12 週間で設置することができた。
発電機は建設から運用まですべて同社スタッフが行う。現在、24 時間シフト制で保守・管理にあたっ ているとする。
PPS など国内の特定規模電気事業への参入の意 向についてソームス氏「我々はあくまで緊急用発電 機のビジネスを展開している」 と可能性を否定する。
■海外からの支援
東京電力では、今回の発電設備の緊急設置に関して、アグレコ社の他にも海外企業から多くの支援を受けた。韓国の現代重工業とタイの EGAT 社は、 震災後すぐに発電設備の提供を提案。現代重工業の ディーゼルエンジンは姉崎火力発電所、EGAT 社 のガスタービンは、神奈川県の川崎火力発電所と都内の大井火力発電所に設置し、稼働している。
誌面情報 vol31の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方