11. 状況認識の統一
新産住拓では、全社員が住宅の被害状況をなるべく正しく把握できるためのチェックシートを作った。これも連携の上で重要な手段である。専門的な用語を使うなら「状況認識の統一(COP:Common Operational Picture)」と言って、災害対応に関わるあらゆる人が同じ認識を持てるようにする災害対応の「肝」とされる。こうした対応を地元の工務店ができたことは、災害の種類こそ違うが、普段から台風などの対応を経験し、備えていたからだろう。

災害対応の主体組織におけるCOPを活用した状況認識統一事例

12. 社員のケア
そして、多くの企業が課題に挙げたのが社員のケアだった。特別手当を支給したり、交通費を無料にしたり、休暇を与えたり、様々な取り組みが見られた。被災した社員にどのような援助をするのか。社内を避難所として開放した再春館製薬所、熊本構造計画研究所の取り組みは大いに参考になる。社員を守ることが地域全体の負担を軽減することにつながる。
本当に社員の困っていることが何かをいかに把握し、どう対応するか。再春館製薬所が被災した「全社員にヒアリング」を実施したことは同社がどれだけ社員を大切にしているいるか、その姿勢が伝わってきた。これは安否確認システムではできないことだ。システムで集計できないことがあることを人事担当者は考えておかなくてはいけない。

再春館製薬所では、学校が休校し、子供を預かってくれる場所がないという社員の悩みに対して、幼児から高校生まで自社の保育施設であずかった。被災された社員にはどれだけありがたかったことだろう。家が被災した社員には寮を貸し出したり、不動産を紹介する。対応に限界があるにしても親身に接する姿勢は学びたい。社長からの心のこもった手紙も社員を勇気づけたに違いない。

今回の熊本地震で、ある企業では、被災したコールセンターを被災地から少し離れた別の場所に移そうとしたが、社員は移せなかったという話を聞いた。社員は家族を持ち、地域で暮らしている。短い期間といえども、勤務地を変えるということは容易ではない。ハードの対策だけでなく、社員のメンタルを考えBCPを見直すことも必要だ。

そして、新産住拓の小山社長が言うように、社員にとって一番の不安は「いつまでこんな仕事の大変な状況が続くのか」ということも頭の中に入れておかなくてはいけない。今後の方針やスケジュールを明確にすることが社員に「出口」を示
すことであり、不安を和らげることにつながる。

13. 地域支援
再春館製薬所の社員が避難所をまわって被災者を支援している姿勢を見て、これは共助ではなく自助だと感じた。真夜中の地震で、社員が駆けつけるのは本社ではなく地域の避難所だ。社員である前に地域住民である。そして家族がいる、知人、友人がいる。別の言い方をするなら地域が社員を守ってくれている。その地域を会社として支援していくのは、自社を守ることにつながるということだ。「私たちは支援をしてあげているのではない。支えられているんです」(再春館製薬所広報室の江河氏)という言葉がすべてを象徴している。
多くの人が、個々の企業のBCPが地域継続につながると信じている。だからBCPが重要なのだと。もちろん、各企業がそれぞれの機能を果たすことで、地域機能が維持されるし、各企業が事業を早期に復旧することにより地域経済が早く復興する。そして地域の雇用を守ることにつながる。

しかし、現実にはこんな美しい話だけが起きているわけではない。
自社の事業だけを考え、当面の食料を買い占めたり、燃料を買い占めたり、普段の備えがないことで、緊急時に地域に大きな負担をかけるケースが散見される。全社的な話ではなく、ごく一部の社員が行ったことでも、会社としてそのような姿勢であると見られてしまう。メディアでも、自社の報道のためにガソリンスタンドの列に割り込むようなことが今回の災害対応で問題視された。地域と事業継続の関係は、末端社員まで含め、しっかり考えておくべきことだ。

リスク対策.com Vol.44  BCPと地域貢献