2016/08/30
昆正和の「これでいいのか!本当に必要なのは命と会社を守るBCP」
■日本のBCPにとって本当に必要な要素とは
しかしこのように書くと、「日本のBCPにアクションプランがないのは、欧米がIMPやERPを別扱いにしているのと同じ理由からだ」と答える人もいるでしょう。つまり、日本には防災慣習-避難の段取り、非常時備蓄、消防計画など-が広く根付いているから、BCPに先立ってそれらを併用すれば済む話。わざわざBCPに組み込んでややこしくする必要はない、という考え方なのです。
日本の企業には防災慣習が根付いている? 本当でしょうか。社会の模範となるべく防災活動をしっかりやっている大企業や中堅企業ならともかく、一般の中小零細企業には、避難訓練一つやったことがないし、これからやろうとも思っていない会社が非常に多いのです。こうした企業に向かって、いきなり「大災害に備えてBCPを作りましょう」などと呼びかけて、どれほどの意味があるだろうかと思うわけです。
そこで、ITの復旧ノウハウを無理に防災に当てはめようとするこれまでのBCPはさておき、もっと基本的な線で考え直すことを提案したいと思います。あくまで一般的な中小企業を念頭に置いた場合ですが、災害を生き延びるためには、少なくとも次の2つの要件を満たすことが肝要であろうと思います。
一つは「命を守る基本ツール」の手順や規定をしっかり作り、備えることです(これについては次のセクションで)。もう一つは「緊急対応プラン(Emergency Response Plan:ERP)」の策定※。いずれも、どんな会社も持たなくてはならない最低限の危機対応ツールです。
■命があればなんでもできる!
ここでは、先ほど述べた2つの要件の1つ目、「命を守る基本ツール」について少し詳しく説明します。ここで言わんとすることは、「命あっての物種」の一言につきます。
例えば東日本大震災の例。宮城県石巻市の造船会社は大津波ですべての工場設備を失いましたが、「一度は廃業も考えたけど、1人の犠牲者も出なかったことが再起をかけて自らを奮い立たせるきっかけにつながった」と社長はいいます。
負傷者や犠牲者を1人も出さないこと。それが組織の絆を強め、危機から会社を救う大きな力となります。そのために必要なことは、中核事業や目標復旧時間どころの話ではありません。危機が発生する。もしそれが命にかかわるものならどこへ逃げ、どこに集合し、どうやって全員の無事を確認するのか。あるいは大規模な災害で帰宅できなくなった社員やお客さまを一晩、二晩どう守りぬくか。これがトッププライオリティです。
これらは「避難計画」「非常時備蓄計画」「帰宅困難者対応手順」などの名称で数枚のシートにまとめることができるでしょう。これらを検討・参照するための情報ソースはネット上に豊富に掲載されていますから、作るのは容易です。いずれも単独で使用するものではなく、次に述べるさまざまな「緊急対応プラン(ERP)」のサブルーチンとして、その効果を発揮するのです。
※いくつかの緊急対応計画の中から、筆者がERPを採用した理由は、言葉の定義が明快で作りやすく、大企業から中小零細企業まで幅広く適用できる点にあります。
(了)
昆正和の「これでいいのか!本当に必要なのは命と会社を守るBCP」の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方