■日本のBCPにとって本当に必要な要素とは
しかしこのように書くと、「日本のBCPにアクションプランがないのは、欧米がIMPやERPを別扱いにしているのと同じ理由からだ」と答える人もいるでしょう。つまり、日本には防災慣習-避難の段取り、非常時備蓄、消防計画など-が広く根付いているから、BCPに先立ってそれらを併用すれば済む話。わざわざBCPに組み込んでややこしくする必要はない、という考え方なのです。

日本の企業には防災慣習が根付いている? 本当でしょうか。社会の模範となるべく防災活動をしっかりやっている大企業や中堅企業ならともかく、一般の中小零細企業には、避難訓練一つやったことがないし、これからやろうとも思っていない会社が非常に多いのです。こうした企業に向かって、いきなり「大災害に備えてBCPを作りましょう」などと呼びかけて、どれほどの意味があるだろうかと思うわけです。

そこで、ITの復旧ノウハウを無理に防災に当てはめようとするこれまでのBCPはさておき、もっと基本的な線で考え直すことを提案したいと思います。あくまで一般的な中小企業を念頭に置いた場合ですが、災害を生き延びるためには、少なくとも次の2つの要件を満たすことが肝要であろうと思います。

一つは「命を守る基本ツール」の手順や規定をしっかり作り、備えることです(これについては次のセクションで)。もう一つは「緊急対応プラン(Emergency Response Plan:ERP)」の策定※。いずれも、どんな会社も持たなくてはならない最低限の危機対応ツールです。

■命があればなんでもできる!
ここでは、先ほど述べた2つの要件の1つ目、「命を守る基本ツール」について少し詳しく説明します。ここで言わんとすることは、「命あっての物種」の一言につきます。

例えば東日本大震災の例。宮城県石巻市の造船会社は大津波ですべての工場設備を失いましたが、「一度は廃業も考えたけど、1人の犠牲者も出なかったことが再起をかけて自らを奮い立たせるきっかけにつながった」と社長はいいます。

負傷者や犠牲者を1人も出さないこと。それが組織の絆を強め、危機から会社を救う大きな力となります。そのために必要なことは、中核事業や目標復旧時間どころの話ではありません。危機が発生する。もしそれが命にかかわるものならどこへ逃げ、どこに集合し、どうやって全員の無事を確認するのか。あるいは大規模な災害で帰宅できなくなった社員やお客さまを一晩、二晩どう守りぬくか。これがトッププライオリティです。

これらは「避難計画」「非常時備蓄計画」「帰宅困難者対応手順」などの名称で数枚のシートにまとめることができるでしょう。これらを検討・参照するための情報ソースはネット上に豊富に掲載されていますから、作るのは容易です。いずれも単独で使用するものではなく、次に述べるさまざまな「緊急対応プラン(ERP)」のサブルーチンとして、その効果を発揮するのです。

※いくつかの緊急対応計画の中から、筆者がERPを採用した理由は、言葉の定義が明快で作りやすく、大企業から中小零細企業まで幅広く適用できる点にあります。

(了)