2019/11/29
リスクは連鎖する!
2025年の崖
さらに追い打ちをかけるのは、新たなデジタル技術を活用してビジネスモデルを創出・柔軟に改変するデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現できないことで、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を示す「2025年の崖」の存在だ。老朽化や複雑化、ブラックボックス化している既存のシステム(レガシーシステム)が大きな障壁となり、DXの推進が阻まれている。それもそのはず、レガシーシステムの保守管理費用にほとんどのIT予算を取られてしまう現実は企業経営に重くのしかかる。
このような状況下、先月新潟県のとある製造会社の顧客情報が漏洩した。同社は英国に支店を構え、欧州の顧客情報が含まれている可能性もあるという。企業規模にかかわらずEU圏内に拠点を置き、情報漏洩が起これば、当然ながらGDPR抵触の可能性がある。改めて、サイバーリスクが全ての企業規模の経営課題だと言わざるを得ない。
そこで、サイバーリスクに対する考え方を振り返ってみたい。去る7月、米国から本物のハッカーが、とあるルートから筆者を訪ねて来た。彼は米国の旅客機をハッキングした容疑で、かつてFBIからお尋ね者扱いだった。現在は米国政府筋へのアドバイザーや、自身が考案するサイバーセキュリティー手法の提供をなりわいとするいわゆるホワイトハッカーである。
頭はスキンヘッド、サンタクロースのような長い顎ひげは真緑。黒のパンクロックTシャツに五本指の地下足袋で現れた彼の怪しさたるや相当なものだ。しかしながら彼との議論は最高に刺激的で我が意を得たりの展開だった。
彼は開口一番、「どんなシステムでも100パーセントハッキングできる」と言った。サイバーリスクは100パーセント防ぐことはできないというありがちな考え方ではなく、100パーセント侵入もしくはハッキングされて当然であることを前提にすれば、その対策の根底が天と地ほど違うのは自明の理である。
彼はかつてブラックハッカーとして数多くのシステムに侵入してきた。要するに、「システムは必ず侵入される」ということは自分自身が実証済みというわけである。彼の論点である「必ず侵入される」という視点で見れば、全く同一のデコイ(おとり)のシステムを作り上げてそちらに誘い込み、リードタイムを稼いで対策を取るといった、いわゆるロスリダクション(軽減)こそが有効であり、従来型の入り口管理に重きを置いたロスプリベンション(予防)では完璧ではないだろう。
システムは「必ず侵入される」という発想の転換により、サイバーリスク対策のあるべき姿がより明確に見えてきた。次回は、サイバーリスク対策のポイントについて解説していく。
(了)
マーシュジャパン株式会社
シニアバイスプレジデント
佐藤徳之
リスクは連鎖する!の他の記事
- 投資協定仲裁とその執行
- サイバーリスク対策を考える(後編)
- サイバーリスク対策を考える(前編)
- 持続可能な開発目標の達成に向けて
- 南海トラフ地震に向けたリスクファイナンス
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方