東日本大震災で浸水した仙台市 ( 出典:America's Navy http://www.navy.mil/ )

我が国に大きな歴史的傷跡を残した2011年3月11日の東日本大震災から早くも6年が過ぎようとしている。私達はあの災害から何を学んで教訓とするべきなのか?

ジャーナリストのアマンダ・リプリーはその著書「生き残る判断、生き残れない行動–THE UNTHINKABLE–」の中で聖アウグスティヌスの言葉を引用している。

「この恐ろしい大災害は、終わりではなく始まりである。歴史はかくのごとく終わるのではない。大災害は歴史の新しい章を開くのである」

災害を単なる悲劇として終わらせるのではなく、人間が本来持つ適応能力を最大限に発揮し、未来の子供たちのために正しい準備を始めるのが私達に課せられた大きな責務だ。日本列島はどこかで大規模地震が発生すると概ね2~18年の周期で東日本から首都圏、首都圏から西日本と、連動して新たな地震が発生することを歴史は証明している。

政府の地震調査委員会の長期予測によると、30年以内に大規模地震が発生する確率は南海地震が約60%、東南海地震が70~80%となっている。また、首都直下地震については、2007年時点で今後30年間に南関東における直下型地震(M7前後)が発生する確率を70%と推定していたが、東京大学地震研究所の研究チームは、東日本大震災により発生確率が高まり、2012年時点から「4年以内で概ね70%」と発表し、話題になった。

一方、被害予測に関しては、2013年3月に中央防災会議が南海トラフに関して死者32万3000人、経済被害220.3兆円と算出。首都直下地震では死者約1万1000人、経済被害で112兆円という数字が出ていたが、東京都が被害想定を見直し、都内だけで最大9700人の死者が出るとした。

これらは全面戦争に相当する甚大な被害規模と言える。まさしく日本の存亡に関わる危機が目前に迫っている中で我々の準備は万全なのだろうか? また自然災害のみならず近年複雑化する国際情勢の中で懸念されるテロ災害に対してはどうだろう? 9.11やボストンで起きた爆破事件のように残念ながらテロのターゲットとなり易いのは一般市民や企業である。

しかしながら「これらの問題は国が解決してくれるだろう」「いざとなったら警察・消防・自衛隊が助けてくれるだろう」というような幻想に近い楽観主義の方が多くいることに愕然とする。大規模災害が発生すれば地元の警察や消防、消防団も同時に被災する。また交通網の遮断により、被災地域外からの救助も物理的に困難な状況になる。

災害対応には標準化された“教育と訓練”が必要

東日本大震災では緊急消防援助隊が発災から現場に入るまでに14時間24分かかっている。つまり被災者は一時的に孤立無援の状況に陥る。孤立無援とは交通網の遮断のみならず、食料、水、医療、電力、通信、居宅などのあらゆる生活インフラも含んでいる。

災害においては、自助・共助・公助が基本となるが、“人を助けたい”という善の本能が2次的被害を生むケースもある。1985年に発生したメキシコ大震災の時には近隣の人を助けようとした一般市民の方が100人以上犠牲となった。同様に東日本大震災では消防団員254人、民生委員54人の方々がその尊い命を奪われてしまった。災害と戦う上での“引き際”を訓練されていれば防げたのではないかと思うと悔しくてたまらない。

今、我々日本国民は知恵が試されている。いかにして自分と家族の身を守り、地域社会または企業の一員として災害時にどのような貢献ができるか真剣に考え行動に移さなければならない。

それでは何を考え行動に移せば良いのか?

その答えの1つが標準化された“教育と訓練”である。国は国土強靭化を掲げ多額の防災予算を計上しているが、残念ながら実情はハード面の整備に重点を置いた公共事業のばら撒きともとれる様相を呈している。なぜもっと教育・訓練などのソフト面に主眼を置かないのか大きな疑問を持っているのは決して私一人ではないだろう。

私はアメリカ国防総省指針の元、消防の任務に就いて約30年の間、米陸軍の現場最前線で複雑化する災害対応の変遷を学んできて気が付いたことがある。それは私も一般市民の方と何も変わらない一人の人間ということだ。手が4本、目が4つ付いてるわけでもない普通の人間である。何が言いたいかというと、災害に対応するのは例えプロである警察・消防・自衛隊であっても人が対応するということだ。

つまり一般市民でも正しい教育と訓練を受けて知恵を得れば災害時に貢献できることがたくさんあるということである。助けられる側から助ける側へ考え方をシフトするだけで大きな力を発揮できるのは明白である。一人ひとりの災害対応能力を向上させ、プロのレスポンダーが現場に来るまでの数日間を生き延びる知恵と能力を磨くことでポジティブな防災が実現できれば、本当の意味での国土強靭化につながると確信している。