2020/02/12
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
気候変動・水・食糧に危機感
具体的には、本稿トップの図では「Biodiversity loss」(生物多様性の喪失)が「Climate change」(気候変動)、「Extreme weather」(異常気象)、「Water crises」(水危機・水不足)、「Food crises」(食糧危機)と太い線でつながっているのに対して、「The Global Risks Report」の図では「Biodiversity loss」からこれらのリスクへのつながりが若干薄くなっている。また「The Global Risks Report」においては、「Water crises」や「Food crises」の存在感が若干低めになっているように見える。「Social instability」(社会不安)や「Global / National / Regional governance」(国際的な/国家の/地域のガバナンス)の位置付けが両者で大きく異なるのも興味深い。
しかしながら、いずれにおいても気候変動を中心としたサステイナビリティに関する諸問題に対する関心や危機感が高いことは共通しており、アプローチの違いこそあれ、サステイナブルな世界の実現に向けて行動を起こすべきだという国際的なコンセンサスが醸成されていることは確かであろう。
なお図1はアンケート調査結果に基づいて、それぞれのリスクが顕在化する可能性(Likelihood:横軸)とその際の影響の大きさ(Impact:縦軸)をマトリックスにしたものである(注4)。

気候変動による経済への影響に課題も
本報告書では、災害に関連するデータがもう一つ示されている。図2は過去の気象災害による年間の経済的損失の推移である。北大西洋でカトリーナ、リタ、ウィルマといったハリケーンによる被害が発生した 2005年が突出しているのが目立つ。

この図は本報告書の「Finance」というセクションに掲載されているが、このセクションでは気候変動の影響によって深刻化している(と考えられている)気象災害が経済に及ぼすインパクトだけでなく、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures:TCFD)の活動や、近年のESG投資(注5)の動向など、サステイナビリティに関連する経済・財務関連の課題が多方面から論じられている。
本報告書では目次に示した通り非常に広範囲の課題が論じられているので、とても本稿で紹介しきれるものではないが、世界でどのような問題意識が持たれているのか、どのような取り組みが我々に求められているのかを知る上で大変貴重である。自らの視野を広げるという意味も含めて、目を通されることをお勧めしたいと思う。
■報告書本文の入手先(PDF 53ページ/約 22.6 MB)(注6)
https://futureearth.org/publications/our-future-on-earth/
注1)これまでに本連載では次のような記事を掲載していただいた。
気候変動による海面上昇に直面する沿岸自治体を支援するために州が行うべき政策とは(Legislative Analyst's Office / Preparing for Rising Seas)(2020/01/07)
https://www.risktaisaku.com/articles/-/22732
事業継続の観点で気候変動をどのようにとらえるべきか(BCI Continuity Planning for Climate Change)(2017/10/10)
https://www.risktaisaku.com/articles/-/3881
気候変動の影響で災害による犠牲者数はどれだけ増えるのか(Increasing risk over time of weather-related hazards to the European population)(2017/08/22)
https://www.risktaisaku.com/articles/-/3528
注2)日本でも「フューチャー・アース日本委員会」が活動している。
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/units/futureearth/japan-committee/
注3)世界経済フォーラムの「The Global Risks Report 2020」は下記にて公開されている。
https://www.weforum.org/reports/the-global-risks-report-2020
注4)これも「The Global Risks Report」2020 年版の 3 ページ目に同様の図があるので、両者を比べて見ていただきたい。
注5)ESGとは environmental(環境)、social(社会)、governance(ガバナンス)の頭文字をとったもので、これらの 3 分野を中心としてサステイナビリティや企業の社会的責任(CSR)に関連する課題への取り組み状況を考慮した投資活動を総称して「ESG 投資」という。
注6)表紙と裏表紙を除いて見開き1ページとして作成されているため、冊子としてのページ番号は101まである。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/24
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方