【3人の殺し屋】 

「3人の殺し屋」とは、1.気道閉塞2.出血、そして3.ショックにより命を奪われようとしている生命危機状態にある要救助者の状態を比喩している表現である。3人の殺し屋に狙われている要救助者に対して迅速な1.気道確保2.止血3.ショックに対する処置が行われなければならない。

※阪神淡路大震災で得た教訓の中で圧挫症候群(クラッシュシンドローム)による死亡例が50あることから、筆者は4人目の殺し屋としてクラッシュシンドロームもリストアップする必要があると思っている。

【要救助者への接触】

このシリーズで一貫して述べているように、要救助者へ接触する際は必ず、下記の個人用保護具を着用していなければならない。

・ヘルメット
・ゴーグル
・グローブ(皮手袋)
・N95マスク
・安全靴
・ノンラテックスグローブ

※ノンラテックスグローブをした上に皮手袋を装着していれば、要救助者に接する時に皮手袋だけを外せば、すぐに要救助者に接触が可能だ。一旦皮手袋を外してから、再びノンラテックスグローブを装着すると時間の無駄である。

個人装備が整っていれば下記の手順と要領で要救助者へ接触を試みる。

1.  要救助者の意識あり→あなたが見えるかを聞く

2.あなたの身分を明かす

3.  処置の許可を得る!意識不明の場合は「暗黙の了承」を得ているものとする。子どもの場合は保護者がいれば保護者に許可を得る

4.  文化や習慣の違いを尊重する。イスラム教の社会では男性の救助者が女性の要救助者をケアする場合は必ず男性の家族の了承を得なければならない

5.  やさしく、尊敬の念を持って接する。個人保護法や負傷者のプライバシーには十分配慮する

【気道確保について】

■呼吸器

左下の図は人間の呼吸器官を解剖学的に示している。人間が生きていくためには常に新鮮な酸素を呼吸器官から血液を通して体中の細胞に運ばなければならない。気道閉塞の一番の原因は舌根沈下によるもので、この状態から素早く気道を確保するために「頭部後屈・あご先挙上法(ヘッドチルト・チンリフト)」を行う。

頭部後屈・あご先挙上法(ヘッドチルト・チンリフト)(出典:七尾鹿島消防本部HP)

頭部後屈あご先挙上法は下記の7つのステップで行う。

1.もしもし、聞こえますか?と声をかける

2.反応なし→手のひらを額に

3.2本の指をあご先につけたら、ゆっくりと傾ける 

4.耳を近づけ、患者の足方向に視線を向け腹部に手を置く

5.胸の上がり下がりを見る

6.呼吸音を聞く肺の音で正常でない場合、トリアージの判定I(赤)として扱う)。喘鳴音など 

7.腹部の動きを感じる 


以上7つのステップを経ても呼吸が戻らない場合は、もう一度7つのステップを繰り返す。建物倒壊による要救助者の場合、頭部、頚椎、脊柱部位にも負傷しているケースが多いので、その場合の気道確保には注意が必要である。