緊急事態に対する準備を徹底

図3は事業継続計画(BCP)に関して実施した事項について尋ねた結果である。日本でこのような調査が行われる場合、「BCPを発動しましたか?」もしくは「対策本部を設置しましたか?」という設問になることが多いが、本調査においては「緊急対応チーム(incident management teams)を発動したか?」という設問と「戦略的危機管理チーム(strategic crisis management teams)を発動したか?」という設問に分かれている(注4)。結果的には両者はほぼ同じような数字になっているが、このように区別して尋ねることによって、直面した事態を組織がどのようにとらえて対応したかが、より具体的に分かる可能性がある。

写真を拡大 図3. BCPに関連して実施された施策(出典:BCI / Coronavirus Organizational Preparedness)(和訳部分は筆者)

筆者が個人的に注目したのは、全ての計画に対して演習が実施されていることを「確実にした」(ensure)という回答が半数を超えている点である。日本企業において、全ての計画に関して演習を実施された企業がどのくらいおられるだろうか?

なお、全ての事業所において「対処するための計画やチェックリストが作成済みであること」を確実にしたという回答も半数以上あり、このような準備の徹底ぶりが具体的に分かるデータとなっている。

中止する業務の明文化も重要

またBCPの内容に関しては、「優先順位の低いサービスが特定され、BCPが発動された場合に中止する業務がどれか、従業員が知っている」という項目も非常に重要である。BCPを作成する際に、優先的に再開・継続させる業務を特定することは一般的によく知られているが、緊急事態発生時における優先順位が相対的に低い業務に関して、これらを中止することを明記することも、限られた経営資源を有効に活用するために非常に重要である。

特に今回のような感染症対応においては、多くの従業員が業務に従事できなくなったり、在宅勤務などを強いられるような状況が発生しているので、停止させる業務があらかじめ明文化されていれば、状況に応じた対応体制の切り替えを円滑に行う際に役立つ。BCPの中でこのような観点が検討されていない企業においては、今からでも検討を進めていただきたい。

本調査は非常に短時間で行われたにもかかわらず、海外(主に欧米)の企業における準備状況や、現時点での対応状況が具体的に分かる貴重なデータとなっている。もちろん感染者の発生状況や各国政府などの対応方針などは、日本企業が置かれている状況とかなり異なるが、これから実施すべき施策や既存のBCPの内容の見直しなどに参考になる点も多いのではないだろうか。

本報告書ではこれら以外にも、人事部門、IT、渡航制限などに関する調査結果も含まれているので、事業継続にとどまらず、さまざまな観点で参考になると思われるので、ダウンロードして全体をご覧になることをお勧めしたい。


■ 報告書本文の入手先(PDF 16ページ/約0.9MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-coronavirus-organizational-preparedness-survey.html

注1)BCIとはThe Business Continuity Instituteの略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/

注2)原文では「local suppliers」と表現されており、この「local」がどの程度の範囲なのかは明記されていないが、新型コロナウイルスの影響で中国にある多数のメーカーで生産中止が発生したことを考慮すると、恐らく中国など外国のサプライヤーから国内のサプライヤーに切り替えたということではないかと推測される。

注3)原文では具体的に言及されていないが、事業活動に関わるサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出量には、輸入に伴う化石燃料使用によって排出される二酸化炭素の量も含まれるため、国内での調達に切り替えることによってこの分が削減できるという意味であろう。

注4)一般的に、緊急対応チームは何らかのインシデントが発生した際の初期対応にあたるための組織であり、戦略的危機管理チームは経営層が中心となって経営戦略・事業戦略といった観点から対応方針の検討を行う組織である。