2017/05/01
安心、それが最大の敵だ

仙台建設業協会、独自のノウハウ活用
仙台市内と近郊の町村の建設業者81社で組織される仙台建設業協会は震災時協力協定を締結しており、大規模災害発生時には直ちに復旧活動の支援にあたることを決めている。災害直後、協会員の各社は直ちに出動し、被災地パトロールに続いて道路の応急処置やがれきの撤去を行う道路啓開(けいかい)に入った。警察や消防の活動も支援した。
津波被害が甚大であった仙台市東部地区では、道路の寸断や散乱した大量のがれきの山が緊急車両の通行を妨げた。被災者の捜索や救助活動も難航させた。国土交通省が県や自衛隊と共に行った、東北道や国道4号から沿岸部へ向けて緊急車両のルートを複数確保する「くしの歯作戦」にも参加し、建設業のノウハウを存分に生かした。
道路啓開と並行して、震災当日から行方不明者の捜索に伴うがれき撤去に取り組んだ。休みをとる時間はなかった。地元建設業者は自分たちも被災者でありながら、復旧に向けて動き出した。震災の直後から携帯電話などの通信手段はまったく使えなかった。燃料不足と食糧不足が現場を苦しめた。
作業は広範囲に及び、河川で排水作業を行いながらのがれき撤去、道路のがれき撤去、宅地・農地・工業団地等の津波漂着がれきの撤去、各区に設置された震災ごみ仮置き場からのごみの撤去、市立学校の復旧改修工事など、活動対象は多岐におよんでいる。建設業協会の総力をあげた奮闘により、目標時期より前に仙台市内のがれき撤去を完了することができた。市の震災がれきの迅速な処理に弾みをつけることになった。
仙台建設業協会が迅速に動けたのは日頃からの訓練のたまものと言える。海岸に面した同市若林区では、車両を実際に動かす防災訓練を同区と会員企業が2010年年12月に実施し、震災直前の2011年3月3日に反省会を開き、道路啓開の優先順位など区の考え方を会員企業が開いていた。これが迅速な行動につながった。考える前に体が動いたという。
仙台建設業協会の災害応急措置協力会本部で副本部長を務める深松組(本社:仙台市青葉区)の深松努社長は、被災当日仙台東部道路まで来て衝撃を受けた。東部道路を隔てた東西で、天国と地獄にたとえることが出来るほどの別世界が広がっていた。行方不明者の捜索と遺体収容が進む中での道路啓開作業は、作業員にとって精神的にも苛酷だった。泥まみれの遺体を次々に目にし、作業員はあまりのむごさに泣きながら作業を進めた。落ち着いて来た時のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を深松社長は懸念した。
深松社長は、建設業協会としての防災活動のあるべき姿を次のように考える。1.普段の訓練は机上ではなく実際に動いてみるべきである。2.発注者(行政)との綿密な打合せを日頃から行っておく必要がある。3.震災が起こったら通常の通信手段は使えないものと考え、自発的にどう動くかを普段から考えておく必要がある。経験に基づく助言と考える。災害時の建設業界の奮闘を改めて評価したい。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方