~日本は今後どう経済資源を確保するか~

日本安全保障・危機管理学会研究員
岐阜女子大学南アジア研究センターリサーチフェロー
清和大学法学部非常勤講師
和田 大樹

現在の国際経済はスペインやギリシャに端を発する欧州の債務危機に代表されるように、欧米の政治経済的衰退が見られ始め、中国やインド、ブラジルなど新興大国の台頭が目立つようになってきた。しかし新興大国の中でも、例えば中国は近年10%近いGDP成長率を維持してきたが、ここ数年は10%を切っており、世界銀行の予測では今年の成長率は8.2%にまで落ち込むとされている。そしてそのような傾向は他の新興大国にも今後発生する事は十分考えられ、また国家の経済成長の見通しは政治的、社会的要因など相互作用する他のファクターを無視して行えるものではない。今後日本では少子高齢化が急速に進展し、2050年に日本の総人口は現在の4分の3、9000万人にまで減少すると予測される反面、世界総人口は現在の約70億人から2050年には90億人にまで達すると言われている。そしてこの世界的な人口爆発は、先進国ではなく中東や南アジア、アフリカ諸国など発展途上国を中心に発生し、貧困や失業、食糧不足、疫病など現在でも深刻化している国際的諸問題はさらに危機的な状況に陥る恐れがあると国連は警鈴を鳴らしている。

そのような国際環境の中、国家の資源に対するどん欲さも日に日に外交的に顕著に見られるようになっている。特に近年における中国の資源外交には目を見張るものがある。周知のように中国は現在世界第2の経済大国であり、そのGDP成長率も非常に高い。今後もアジア、世界における中国の政治経済的な影響力は拡大すると予測されているが、それを維持するためには石油や石炭、天然ガスなどの天然資源の大量かつ安定的な確保が必要となる。そのための中国の資源獲得外交の展開は、東シナ海の油田開発、尖閣諸島領有権主張、西沙南沙諸島領有権と南シナ海での軍事的圧力強化、そして中央アジアやアフリカ、中南米諸国などとの経済関係強化などに顕著に観られる。そして天然資源を各国からの輸入に依存している我が国にとってもこれは決して他人事ではない。例えば日本はその石油のほぼ100%を外国から、特にその9割は中東からの輸入に依存している。中東の政治的不安定さを考慮すれば、その輸入先の多角化は日本のエネルギー安全保障上極めて重要であるが、未だにその政策実行はみられない。しかし日本は世界でも有数の海洋大国で、例えば尖閣諸島周辺には莫大な石油資源が眠っており、1969年の国連の調査でその埋蔵量はイラクに匹敵するとも言われている。その意味で日本は海底資源の活用をもっと積極的に進めることも1つの手段である。

そして国際的に考えた場合、今後北極海は資源を欲する諸国家の新たな開拓地となるだろう。IPCC(地球温暖化に関する政府間パネル)の報告からも分かるように、北極海の氷河融解は予測を上回る速度で進展しており、今後30年以内に夏の北極海の海氷が溶け、船舶の航行が可能になるとも言われている。周知のとおり、地球温暖化は海面上昇、北極の生態系悪化、少数民族の保護など多くの諸問題の原因となっている非常に深刻な環境問題であることは間違いないが、資源獲得や経済的利点から考えれば多くのメリットがある。

例えば氷河の融解で船舶が北極海を航行できるようになり、日本と欧米を行き来するタンカーなどはスエズ運河やパナマ運河を回避することで航行距離を大幅に短縮することが可能となる(日本-ロンドン間で考えた場合、スエズ航路で21000キロ, パナマ航路は23000キロであるが、北極海ルートでは16000キロとなる)。

また北極海には世界で未発見の石油の約13%、天然ガスの約30%を始め、多くの天然資源が眠っているとされ、氷河の融解でそのような海底資源を獲得できることも容易となる。しかしロシア、アメリカ、ノルウェー、デンマーク、カナダなどの北極海沿岸国は自らの領海と排他的経済水域を強く主張し、北極海情勢に中国などの非沿岸国が必要以上に介入することに警戒の念を示している。だが日本の資源の危機管理、エネルギー安全保障の観点から考えれば、その経済発展と繁栄のために資源を安定的に確保することは死活的に重要である。今後間違いなく北極はさらに注目を集めるが、日本の経済界や企業は、危機管理的側面から資源の確保を真剣に考え、激化する資源獲得競争に負けないような戦略を練っていく必要がある。

 筆者紹介 
和田大樹 1982年4月生まれ、中大法学部卒、同大学大学院修了。安全保障論や国際政治学が専門で、国際テロ情勢やグローバルジハードテロリズムの動向を主たる研究内容としている。海外研究機関や学会、総合誌や新聞などに論文や論評を多く発表。最近の論文に、”Perspectives on the Al-Qaeda”
(International Centre for Political Violence and Terrorism Research ナンヤン工科大学S.ラジャラトナム 国際関係研究所), 「国際社会における中国の台頭とグローバルジハード」、「欧米におけるホームグローンジハーディストの動向」(社団法人 日本安全保障・危機管理学会機関誌)、「原子力発電所を標的とした国際テロの脅威」、「ソマリア過激派に浸透するアルカイダの脅威」(論壇誌“撃論”)など。