霜害の本質

通常の気象観測では、地上約1.5メートルの高さで気温を測ることになっている。気象庁のアメダスなどの観測値は、どれもそうである。だが、放射冷却が顕著に進行しているとき、地表面近くの物体の温度は、地上約1.5メートルの気温より数度低くなっていることに注意しなければならない。晴れた日の夜間の場合、経験的には、地上約1.5メートルでの気温がおおむね摂氏4度以下になると、地表面近くの物体の温度が氷点下になり、露ではなく霜の降りる可能性がある。

では、露ではなく霜が降りると、どうして植物がダメージを受けるのか。それは、霜が降りると、植物の葉や茎の水分が凍結するからである。葉や茎は、水分が凍結すれば組織の機能が低下し、枯死に至る。それは、霜そのものが影響を与えるのではなく、低温が主因であり、葉や茎が低温になって水分が凍結すれば、霜が降りなくても被害が発生する。また、地表面近くの物体の温度が摂氏0度以上で、霜ではなく露が生じた場合でも、その後温度が下がって氷点下になり、露が凍結(凍露=とうろという)すれば、被害は発生する。その意味では、霜害の本質は「凍害」である(「凍霜害」という言葉もある)。

気象台の霜注意報

春、農作業が始まった頃、テレビの天気予報などで「霜注意報」という言葉を聞くことがある。霜によって農作物に被害の発生する恐れのあるとき、気象台は霜注意報を発表する。気象台が行う霜注意報は農業被害を対象としており、農作物への影響がある期間に限定して発表される。だから、農耕期間以外は、霜が降りると予想される場合でも注意報は発表されない。冬期、積雪のない関東平野などは、ほぼ連日、霜の可能性があるが、農耕期間ではないので霜注意報は発表されない。

主な地域の霜注意報の基準を表1に示す。基準要素には最低気温が用いられ、基準値は摂氏2度から4度の範囲でばらつきがある。これは、それぞれの地域で栽培されている農作物の種類や耐寒性の違いによると考えられる。

表1でお分かりのように、霜注意報の基準に、実施期間が明記されている地域がある(関東以西に多い)。春のおそ霜に関してはどの地域も注意報が出されるが、関東以西では秋の早霜に関する注意報が想定されていない地域がある。これは、農耕期間の終了後に初霜を迎える地域に相当する。

霜注意報の基準に実施期間が明記されている場合、それは、これまでの経験ではそれでよかったということであって、その期間以外でも霜による農業被害の可能性が出てくれば、霜注意報が行われる必要がある。例えば、東京地方の霜注意報の実施期間は4月10日から5月15日までとなっているが、春の訪れが早い年は農作業の開始時期が早まり、4月9日以前でも霜注意報が必要になる場合があるのだ。実際、本年(2020年)は3月24日に霜注意報が発表された。また、もし5月16日以降に霜が降りるほどの異常な「寒の戻り」があれば、それこそ農作物は大被害を受けるから、霜注意報が発表されなければならない。だから、「想定されていない無防備状態」を取り除く意味では、霜注意報の基準における発表期間の条件にはこだわらない方がよい。