炎をあげるロンドンのグレンフェル・タワー(出典:Wikipedia)

2017年6月14日、午前1時20分(日本時間午前9時20分)頃、英国・ロンドンの西部ノッティングヒル近く、ラティーマー通りのグレンフェル・タワー(Grenfell Tower:2016年改修済み)の24階建て、高さ68mの建物にある約120世帯の2階または4階から火が外壁、非常階段を伝って建物全体に延焼し、死者12名、重傷者約20名、軽傷者と中等症者約78名の大規模な火災が発生した。

現在も建物内にいる逃げ遅れ者数、出火原因などは不明。現在ロンドン消防局が火災の詳細を調査中であるが、倒壊の危険もあり、2次災害の危険があることから残火鎮滅作業も困難な状況である。


(LONDON FIRE | GRENFELL TOWER (multiple perspectives)/出典:YouTube)

英国のテリーザ・メアリー・メイ首相は「多くの死者を出してしまったことに心から追悼の意を表す」と記者団へコメント。

ロンドンのサディク・カーン市長は、この火災を事故ではなく、「重大な事件」と宣言。警察局と消防局代表のニック・ハード氏は、「どのように行政が今回の大規模火災について対応するかは決まっていない」と発表した。

1.消防隊員の現場活動について

警察局によると、14日、現地時間(BST)午前0時54分にこの炎上火災の通報を受け、約6分後最初に現場到着したロンドン消防局の約20名の消防士達は、延焼していない側から建物内に呼吸器を着装。連結送水管につなぐホースを持って進入し、「火事だ!地上へ逃げろ!」と大声でドアを叩き、寝ている住民を起こしながら建物中央にある唯一の非常階段を数階駆け上がたった。

消防隊長が上階から下階へ延焼していることを確認後、老朽化した建物のため倒壊の危険もあるという情報を得たため、 安全のためすべての消防隊員を建物外へ脱出させ、はしご車と隣接建物など外部からの放水活動に切り替えた。

その後、次々と屋内避難階段を降りてきた住人達の中で、 やけどなどを負っていた約50名を病院へ搬送。その後、次々と到着した消防車の数は約40台、消防士の数は約250名、救急救命士の数は約100名に及んだ。

2.避難した住民のコメント

・7階から、屋内階段を降りて、かろうじて1階まで避難した住民の目撃証言によると、建物内は濃煙と熱気に包まれていたにも関わらず、火災報知器が鳴動していなかった。

・煙に苦しみながら自分が階段を下りていくにもかかわらず、たくさんの装備を持った消防士達が次々に階段を上っていった。

・このまま部屋で待っていては、自分の子ども(女児)が濃煙を吸って、一酸化中毒か窒息してしまうと判断した父親は、とっさの判断で娘をシーツにくるんで煙を吸わさないようにして階段を降りた。

・早めに避難した住民の証言では、自分が住んでいた4階から23階まであっという間に延焼していくのを見てとても怖かった 。

・各階の住人達がお互いにドアをノックしたり声を掛け合って、「早く逃げろ」「地上まで避難しろ」「一番近くの屋内階段から降りろ」「急げ!」など、助け合ったため、22階の居住者をはじめ多くの人々が早い時期に地上まで避難できたのだと思う。

・階段を降りていくときに次々に窓の割れる音や外から「飛び降りるな!待て!」などの叫び声と悲鳴が繰り返し聞こえ、地上に降りたときには逃げ遅れた人たちが両手に子どもを抱いて窓から飛び降りたり、 助けるために上階から子どもを投げたり、上階に火が迫り濃煙の中、同じフロアの隣人宅ドアを叩いて避難するように呼びかけている人、黒焦げのパジャマを着て裸足で階段を下りてきた人など、映画「タワーリング・インフェルノ」を見ているかのような惨状だったと語っていた。

3.住民自治会から建物所有会社と管理会社への責任追及

グレンフェル・タワーの住民自治会(Grenfell Action Group:https://grenfellactiongroup.wordpress.com/参照 )よると 、同建物は2009年から消防設備点検を受けておらず、2013年に電気火災が発生して以来この建物を所有している会社と管理会社に対して、火災危険の排除や電気火災の予防、安全期限切れや老朽化しメンテナンスされていない各種消防設備の改善などの具体的対策を火災リスクアセスメントをもとに再三、要求していた。

2014年7月、管理会社側から住民に「火災発生時でも、この建物は厳しい安全基準に基づいて設計されており、 新しく設置した各部屋の玄関ドアは最大30分間火災に耐え、消防隊が到着するまで十分に耐えるので避難せず、あなたの部屋または部屋の外の廊下に火がない限り、部屋の中で消防隊の到着を待っていてください 」という告知を出していたため、住民達は信じて疑わず、今回、深夜であったこともあって、避難が大幅に遅れてしまい、多くの犠牲者を出してしまったようだ。

1974年にランカスター・ロード・プロジェクトの一環として建設され、42年経った2016年5月に1000万ポンド(日本円にして約14億円)かけて下記の項目などを改善するための大規模な改修工事が完了した。

以下、住民自治会が管理会社へ要望した改善事項

・建物内の非常照明システムの設置。

・配線の不具合による漏電の修理。

・地下室のボイラールーム、エレベーター室、1階の電気室への消火器設置。

・消防車など緊急車両の災害時駐車スペースの確保。

・2方向避難の確保。

・二重窓の窓枠の強化。

・外壁の塗装と防炎化。

・共同セントラルヒーティングシステムの設置。


・消防設備のメンテナンスと適正化。
など

住民自治会であるThe Grenfell Action Group(グレンフェル・アクション・グループ)は2012年から昨日の火災発生まで、 同じ管理会社や所有会社が関係する建物での火災について実例を基に具体的にウェブで警鐘を鳴らしており、数百ページのブログで指摘してきたにもかかわらず、今回の結果になってしまったこと。

また、今となっては結果的に外からは見えない部分もあり、住民自治会が4年以上かけて管理会社、所有会社へ要望してきたさまざまな問題が改修によってどの程度、解決されていたかは不明である。

下記のリンクは何度も繰り返して警鐘を鳴らしていたブログの一部:
https://grenfellactiongroup.wordpress.com/2013/01/28/fire-safety-scandal-at-lancaster-west/
https://grenfellactiongroup.wordpress.com/2013/01/30/more-on-fire-safety/
https://grenfellactiongroup.wordpress.com/2013/02/21/another-fire-safety-scandal/
https://grenfellactiongroup.wordpress.com/2016/01/24/grenfell-tower-still-a-fire-risk/
https://grenfellactiongroup.wordpress.com/2016/11/20/kctmo-playing-with-fire/

今回の火災発生後、住民自治会は建物の改修工事の遅れや工事のクオリティ、避難経路である共有スペースの廊下への給湯器室外設備設置により、唯一の緊急避難経路である廊下が狭くなってしまい、避難が遅れたことなど責任を追及している。

4.ロンドン市消防局の対応

ロンドン市消防局の建物構造エンジニアの最初の記者会見では、建物の倒壊危険は無く、内部での残火鎮滅活動や行方不明者の捜索、火災原因調査は安全だと記者発表したが、その数分後に「再調査の結果倒壊の恐れがあり、大変危険な状態なため建物内への侵入を禁じ、倒壊危険警戒区域を設定しその範囲内への立ち入りを禁止する」と発表を訂正した。

ロンドン市消防局広報担当者は「長年、当該ビルに対して、消防設備点検実施や火災予防対策について具体的にしっかりと指摘し、改善指導を行ってきたにもかかわらず、死傷者を出す結果になってしまったことを深く遺憾に思う。管内の他の火災予防指導対象物についても、早急に改善を行うように強く求めていきたいとコメントした。

先着隊で早い時点で建物へ進入し、消火活動を試みた隊員の証言では7階から連結送水管を使った消火作業を試みたが配管が熱を持ち、すでに暑くて触れないほどの熱を持っていてホースを接続できなかった。

連結送水管のバルブを開けたところ、しばらく水が上がって来なかったために階段部分にホースを伸ばすと次々に避難してくる住民の避難障害になると判断したため、内部からの放水活動を断念したと無線報告を行ったことを語った。

ロンドン市消防局代表は、消防は火災対応だけで無く、下記の対応も必要であることを部下に命じた。

・ 消防以外の人々の建物への進入禁止警備。

・ すでに避難した住民への継続的な救急対応。

・ 建物倒壊範囲の警戒区域設定など2次災害の危険度判定を行った上で警察官などすべての現場関係者を守ること。

・ 避難した住民達への毛布、食料、飲料水、子ども達へのおもちゃ、着替えなど最低限、必要なものを準備するようにボランティア団体や地域慈善事業団体、教会施設などへの協力要請。

5.日本における「高層マンション火災対応」について

日本でも老朽化した高層マンションが存在しており、例としては2015年3月2日午前8時半過ぎ、東京・千代田区西神田の25階建て高層マンションの20階に住む男性宅から出火。約50m2が燃える火災が発生し、2時間半後に火は消し止められた。通行人が消火活動の一部を撮影した映像から、はしご車の設置位置と高さ、有効活用の難しさと消防隊員の火点階へのアクセスと火元部屋への進入訓練のさらなる必要性、マンション居住者で組織する自衛消防隊の個人装備の充実と実践的消火訓練の定期指導や住民参加型の災害別避難誘導訓練の必要性を感じる。

日本では、今回のロンドンで起こった火災建物のような消防設備の点検不備や開発業者や管理会社の長期にわたる怠慢はないかもしれないが、やはり消防側もありきたりでワンパターンな火災予防指導、火災消火・避難訓練ではなく、その対象物の立地や環境など危険特性に応じた内容を把握しておかねばならない。

実際に火災が発生した時から、建物倒壊時の警戒区域設定判断や避難後のテント設定、住民の毛布などによる防寒対策や心のケアまでをアドバイスしたり、行えるような活動までを含んだ訓練指導が必要な気がする。

■高層化する建築物における防火安全対策(東京消防庁・火災予防審議会答申)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/kk/pdf-data/21k-jt-all.pdf

この火災で亡くなられた方々のご冥福と負傷された方々の心身と生活が早く回復されますようにお祈りいたします。また、勇敢に任務を果たした消防士達に敬意を表します。

(了)