2020/05/02
防災・危機管理ニュース
ウェビナー後半に登壇した渡辺教授は、「製造業グローバルサプライチェーンにおける新型コロナウイルス感染症拡大の影響と今後の課題」と題し、新型コロナがグローバルサプライチェーンにもたらす影響の特徴、製造業が抱える課題と対応の選択肢、今後の展望とレジリエンス強化の重要性などを解説した。
渡辺研司教授は、約100年振りの世界的な感染症拡大事案となった新型コロナの影響の特徴として、国際間の高速・長距離の人流・物流が感染拡大の背景にあることや、各国の対応差や制限緩和の時期のずれによって終息時期が見えないことを指摘。経済活動では、製造業サプライチェーンへの影響として、需要と供給への同時インパクトによる生産再開判断の困難、サプライチェーンの途絶、納入キャンセル、川下企業の業績悪化などにより、復旧の段取りが組めない状況となっていると説明した。
製造業が抱える課題では、需要・供給の両サイドで低迷・回復フェーズのズレが生じ、コロナ後の市場の不確実性が増大していることや、従業員の雇用維持、キャッシュフローの低下、日本回帰・東南アジア諸国への分散も含めた「正解のない生産体制見直し判断」といった点を指摘。そんな中で今行うべき取り組みとして、生産再開に向けた現場調査とモニタリングを進めつつ、「現地従業員の雇用維持に向けた最大限の努力」や、「なりふり構わない資金繰りの手配」といったことが取り得る選択肢であるとの考えを示した。
その上で、今後の展望として、コロナ後の回復フェーズが「V字」や「U字」での回復ではなく、「立体的レ字回復」となると予測。企業のレジリエンス強化を考える上で、直線的な復旧・復興、受動的対応では生き残りは不可能であり、「柔軟な発想で転換点を見逃さない体制」が求められるとの考えを示した。さらに、タイなどの現地法人としては、現地従業員との価値観共有・信頼醸成、長期的コミットメントを改めて示すことで優秀かつ高付加価値の従業員を維持・新規雇用することなどが、コロナ後の事業継続に不可欠であることを強調した。
そのほか、渡辺氏は、自身が研究代表者を務める、アユタヤ地区の工業団地3カ所を対象とした「SATREPS : Area-BCMプロジェクト」の取り組みを紹介。同プロジェクトは、工業団地を取り巻くコミュニティ全体の水害リスクの可視化と情報・行動共有のための枠組み構築を目的としたもので、その枠組みが水害に限らないエリアBCMとして、今回の感染症拡大にも対応可能であるとの考えを示した。
講演の最後に、渡辺氏は「転禍為福」(てんかいふく)を実現するレジリエンスとして、通常時からの柔軟性の積み上げが重要であると強調。タイの人々が口にする「マイペンライ」(しょうがない)という言葉について、「しょうがない、でも何とかなる、大丈夫」という柔軟な思考を示すものと賛意を示し、タイほか各地でコロナ禍からの復旧に取り組むウェビナー参加者にエールを送った。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方