2013/05/25
誌面情報 vol37
きっかけは、1人の従業員の停職処分だったという。現地時間の朝、休憩時間にインド人班長がインド人従業員に対して仕事の注意をしたところ、インド人従業員が反発。さらに注意をしようとしたところ、その従業員が班長に暴力をふるってきた。インド人班長は人事部に報告し、同従業員の停職処分を決定。その後、インド人従業員は労働組合に救済を申し出た。労働組合は会社側に停職処分の撤回を求め、同日、労働組合と人事部が事務所内でインド人従業員の処分を話し合っていたところ、100人の従業員が約一斉に暴れ出し、事務所に乱入してきた。最終的に1000人近くが暴動に参加したと見られている。暴動は翌朝までに沈静化したが、その後、警察の捜査で、正社員1500人の3分の1にあたる約500人が暴動に関与したとして解雇された。
暴動の背景には、階級制による不満や、社会騒乱を狙った左勢力の影響があるとの見方がある。そのため、この事件は、インド特有のカントリーリスクとして認識されていることが多い。しかし、その認識は必ずしも正しくないようだ。
■事件の背景
マネサール工場では、3200人の組み立て作業員が働いており、半分が常勤者、残り半分が契約社員。人気車種「スイフト」などを生産するインドの中核工場である。
スズキは1982年、自動車の国産化を目指すインドの国策に協力する形で進出に合意。他の自動車メーカーに先駆け、現地法人を立ち上げて1983年からグルガオン工場を稼働させ、それに次ぐ拠点として、マネサール工場を2006年に建設した。
インド国内での販売台数は自動車業界トップ。そんな優秀企業で、なぜ暴動が起きたのか? 事件のきっかけとなった人事担当のインド人班長とインド人従業員との間で、身分制度に関する発言が問題を引き起こしたとの報道もあったが、これについては、当時のマルチ・スズキ会長のR・C・バルガバ氏が「二人とも同じカーストに属し差別発言などあり得ない」とコメントしていることから、関係ないと言える。
左勢力の関与については、多少の入れ知恵はあったかもしれないが、それ自体が暴動の原動力になっているとは考えにくい。その理由として、同じインド工場でも、わずか、車で30分程度しか離れていないグルガオン工場ではまったく問題が起きていない。
グルガオン工場にはかねてから労働組合があり、こちらは会社との関係もうまくいっていたという。同工場は、スズキが長年かけて、日本とインドのいいところを融合させながら、育ててきた。ところが、2006年に建設されたマネサール工場は、グルガオン工場の従業員とは別に、新たな従業員を現地採用した。その結果、グルガオン工場の労働組合とは別の労働組合が誕生した。彼らは比較的に若く、グルガオン工場の労働組合とは情報の共有もされていなかった。加えて、労働組合がどんな組織で、どのような活動ができるのか、会社とどう協議するかなど基本的なことが理解されていなかったとされる。 こうした環境下で、「自分たちの意見が会社に採用されない」「給与が上がらない」など、組合員のちょっとした労働環境に対する不満が、すべて労働組合のリーダーに向けられるようになり、リーダーは組合員の指示を得るためにも、会社に対して力を見せつける必要に迫られていた。そこに、左勢力が入れ知恵をしたことは考えられる。
暴動化するまでには前兆があった。マネサール工場では、前年の2011年も33日間に及ぶ大規模ストが発生していた。
つまり、一連の問題は、インドにおけるカントリーリスクというよりは労働組合の管理方法に問題があった。労働組合や従業員と経営者が、良い関係を築いていけるかという極めて根本的な問題だ。もっと言えば労働管理を現地に任せきりで、その管理ができていなかった。
インドに限らず、どの国でも同じことが起き得るし、日本も50年代には経験してきたことだ。大切なことは、経営者がどれだけ従業員とコミュニケーションをとっているか。そのためには、従業員のことを経営者はもっと理解する必要があるし、従業員にも経営のことを正しく理解させる必要があると言えるだろう。
文化や考え方が違う海外において、会社の理念を共有して同じベクトルで経営者と従業員が働ける環境を築くことは容易ではない。「安い労働賃金だから使ってやる」というような見下した考え方では、従業員の反発を招くのは必至だ。
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