続・海外進出リスク

自動車メーカーのスズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場(ハリヤナ州)で従業員による暴動が発生して間もなく1年を迎える。現地の工場人事部長が殺害され、96人にのぼる管理職らの負傷者を出し、多くの設備が破壊されたこの事件は、日本企業に海外進出リスクの恐ろしさを改めて見せつけた。その後も、中国の反日デモ暴動、アルジェリアでの人質事件と、海外で邦人を巻き込んだ事件が後を絶たない。本誌では、前号で海外進出リスクへの対策を特集したが、マルチスズキにおける暴動の根底にある問題を今一度整理することで、別の角度からこの海外リスクを改めて考えてみたい。

■暴動の全容 
マルチ・スズキのマネサール工場で従業員の暴動が発生したのは2012年7月18日の現地時間の夜。 

新聞報道によれば、鉄パイプや自動車部品を手にとった従業員たちが、上司であるインド人班長やマネジャーらに襲い掛かった。工場のゲートはふさがれ、逃げ場を失った班長やマネジャーは、暴徒化した従業員に取り囲まれて殴打され、さらに事務所には火が放たれた。これにより、人事部長1人が焼死し、96人の負傷者が出た。多くの設備が破壊されたことに加え、事件の捜査などに時間を要したことで、1日約1700台の生産能力を持つ工場は1カ月にわたって閉鎖。設備の復旧など直接被害や、生産停止による営業損失を含めると数百億円の被害が出たと見られている。