2020/06/02
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
ビジネスの再開について
図1は「全従業員に在宅勤務ポリシーを適用しているか」という設問に対する回答状況であるが、若干減少傾向にあるものの6割程度の組織がなお「既に実施している」と回答している。なお、ここで「在宅勤務ポリシーを適用している」というのは必要に応じて在宅勤務できるルールやシステムが用意されているということであり、必ずしもこれらの組織の全従業員が在宅勤務を実施しているとは限らない。しかしながらパンデミックが発生していない状況においても在宅勤務のメリットを享受するという意味と、今後起こり得るパンデミックの第2波、第3波に備えるという意味の両面で、在宅勤務できる仕組みを維持していることが重要であろう。

ちなみに、「可能であれば会議を電話会議に変更する」(原文ではconference callと書かれているが、もちろんウェブ会議も含まれるであろう)という設問に対しては依然として96.5%が「既に実施している」と回答しており、かつ国内外の出張規制の解除に関しても慎重な姿勢を表すデータが出ている。様子を見ながら慎重に事業活動の態様を変化させつつある様子が見て取れる。
図2は「部品や原材料などの調達の継続性を確保するためにサプライヤーを変更したか」という設問に対する回答状況である。「既に実施している」という回答が第5回まで増加傾向であったものが、第6回で減少に転じている。パンデミックが収束に向かい、各国・地域での事業活動が再開され始めたことで、一旦変更されたサプライヤーを元に戻した組織が現れているのではないかと思われる。なお、サプライヤーに関しては、主要なサプライヤーの事業継続計画(BCP)をレビューしたという回答が6割、Tier 2以下のサプライヤーのBCPもレビューしたという回答も3割強あるなど、興味深い調査結果が含まれているので、ぜひ報告書本文をお読みいただければと思う。

BCPに関連する調査結果のなかで興味深いのは、「パンデミックによる影響の長期化にともなう優先順位の変化を反映して事業影響度分析(BIA)を見直した」という設問に対して、60.7%が「既に実施している」と回答していることである。この設問は第2回調査から設けられているが、実は第5回で一度53.5%に落ちたとき以外は、第2回からずっと6割強が「既に実施している」と回答している。
このことは、調査に回答した組織の多くでBIAが所定の手法に基づいて実施されて文書化されており、かつ見直しを実施するためのマネジメントプロセスが存在していることを暗示している(注4)。単にBCPが作ってあるだけでなく、組織的にBCMに取り組まれることの長所が現れているのではないかと思う。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方