球磨村のハザードマップの一部(国土交通省「重ねるハザードマップ」より)。高齢者福祉施設があった地域は、一帯が浸水深最大10~20mとなっていて、所々が土石流警戒地域に指定されている

7月4日早朝、球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」で14人が心配停止状態となって病院に搬送された。7時間で600ミリも降るという大変な豪雨で、津波のように濁流が押し寄せたという。

しかも深夜未明という時間帯、立地はハザードマップでは浸水深が10m超、避難先も急には確保できそうもない。50名定員の特別養護老人ホーム職員の夜間配置基準は2名以上、実際に何名いたかはわからないが、50名もの要介護高齢者を少人数で安全に移送するのは不可能だったはずだ。

そうなると、この災害の主な原因はこのようなリスクの高い場所に、要介護高齢者の、しかも入居施設の建築が認められてしまう法制度にあるのではないか。

出水期はまだ始まったばかりだ。これを教訓に福祉施設の避難について考えたい。

1.ハザードマップの確認と避難確保計画

まず、施設のハザードマップを再度、確認いただきたい。浸水想定地域、土砂災害警戒区域内の福祉施設は「避難確保計画」の作成が義務付けられている。ひな型に沿って作成するだけでなく、夜間の急な大雨、洪水、土砂災害で、どのように安全を確保するかを真剣に検討し、計画化する必要がある。

実際に、2016年の岩手県岩泉町の認知症グループホームで9人の認知症高齢者が亡くなった災害の後、東北地方では相当に真剣な避難確保計画作成及び訓練が行われ、その後の水害で安全な避難につなげている。

2.高齢者の状況

認知症の方は、危機的状況を理解できないないし、説明しても理解できない方が多い。また、寝てしまうと「寝たい」が全てに優先する人も多く、タイミングを間違えると避難自体がとても困難になる。

今回は、深夜、未明の災害なので、おそらく高齢者の協力を得ながら避難支援をできる状態になかった。そうなると、明るいうちに避難するしかないのだが、高齢者にとっては、環境が変化しない、すなわち移動しないほうがよいので、単に早く避難とはならず悩ましいところだ。

また、立ち上がることがまったくできず、ストレッチャーで搬送するしかない方もいる。秋田県の特別養護老人ホームでは1台しかないストレッチャー付き車両で何回も往復して非常に怖い思いをした福祉施設もある。

3.地域連携

写真は昨年の台風19号で福祉施設から運び出した家具類

昨年の台風19号で被害を受けた長野県の福祉施設では、夜間にも関わらず地域住民の協力を得て避難を完了させている。これは、夜間の職員配置が少ないことから、日ごろから地域住民と共同で避難訓練を行っていた成果だそうだ。訓練通りに避難できたという話を施設の事務長からうかがっている。また、秋田県の認知症グループホームは、やはり日常から地域住民と避難訓練をしていた。大雨で避難するときに住民が傘をもって駆けつけてくれたという。建物の軒先から車に移るまで屋根がないので高齢者が濡れるとかわいそうだ、との思いだったそうだ。このように、日常からの地域連携が極めて重要だ。

4.避難先での事業継続

秋田県のある特別養護老人ホームでは、避難計画にしたがって必要な物資を車に積み込んで小学校の体育館に避難した。しかし、食事になって高齢者の上半身を少し起き上がらせる必要があった。いつもなら電動ベッドで簡単にできるが、避難先では一人の職員がずっと支え続けないといけなかった。これがとても辛かった、と伺っている。

福祉施設の場合、避難したら終わりではないのだ。特に認知症の方は、ベッドが必要で、プライバシーの確保ができないと不安定になり、トイレも近くないとだめなので、教育施設への避難では福祉サービスの継続が難しい。

そこで、近隣の福祉施設間で災害時の相互支援を決めておくのが有効ではないだろうか。同じ福祉施設間なら避難先としても安心であるし、福祉サービスの継続もずっと容易になる。実際に、三重県伊賀市では、社会福祉協議会の音頭取りで「伊賀市社会福祉法人連絡会 災害時相互支援協定」を締結し、災害時の相互支援を決めている。このような取り組みが全国で普及することを強く願う。