2013/11/25
誌面情報 vol40
地域住民、開発業者、行政の三位一体で
東京急行電鉄
東京急行電鉄株式会社(東急電鉄)は、自らが中心となって開発を手がけてきた東急田園都市線の街を再生させる取り組みを進めている。渋谷から神奈川県大和市の中央林間駅に至る東急田園都市線(東急多摩田園都市)は、戸建て住宅地を中心に形成される東京近郊のベッドタウン。東急多摩田園都市の開発に着手してから今年でちょうど60周年を迎えるなかで、街のインフラの老朽化や住民の高齢化と少子化により、地域の持続可能性が問われはじめている。こうした諸課題を何とかしようと動き出したのが、東急多摩田園都市における官民連携による再生プロジェクトだ。「次世代郊外まちづくり」本取り組みにあたっては、2012年4月に横浜市と東急電鉄が包括協定を締結。横浜市と東急電鉄と市民が三位一体で、住民意思を尊重しながら、高齢者から若い世代にとっても魅力ある街に再生させようと取り組んでいる。
官民協働で郊外住宅地の論点整理
多摩田園都市は、田園都市線の郊外部、川崎市、横浜市、町田市、大和市にまたがる開発計画面積約5000ha、居住人口約60万人の郊外住宅地である。このうち多摩田園都市の中核を占める横浜市青葉区には30.6万人が居住している。1950年代から鉄道建設と一体となった開発が始められ、多摩丘陵の傾斜地に良好な郊外住宅が集積。土地区画整理による一次開発は1990年代初頭で一巡した。

初期の住宅地だと開発から40~50年を経た中で深刻化しているのが社会インフラの老朽化や、居住者の高齢化、少子化である。この問題を深刻に受け止めた横浜市と東急電鉄は2011年6月に、「郊外住宅地とコミュニティのあり方研究会」を立ち上げて議論を重ね、論点を整理。その結果、2012年4月に両者で「次世代郊外まちづくりの推進に関する協定」を結び、官民協働で多摩田園都市の再開発に取り組むことにした。
東急電鉄が街の再生に取り組むのには次のような背景もある。同社は、交通事業、不動産事業、生活サービス事業の3つが基幹事業。今後団塊世代が定年退職し、都心に通勤しなくなるのは交通事業にとってマイナスであり、また若年世代が郊外に魅力を感じなくなり、都心に居住してしまうのも大きな痛手。郊外部での消費規模が縮小すれば、生活サービス事業も影響を受ける。鉄道会社として、これらを看過できないという実情がある。
街が高齢者・若者ニーズとミスマッチ
先の郊外住宅地のあり方検討会では、次のように問題点が整理された。
青葉区の場合、高齢化率は2013年3月時点で17.3%(5万人)と高くないが、2035年には高齢者人口は11万人に急増すると見込まれる。これに伴い、医療・介護サービスの供給が圧倒的に不足する事態が予想されるほか、エレベーターの無い団地の高齢者対応問題も喫緊の課題となっている。
高齢化とともに問題視したのが、少子化と若者不足。かつてはサラリーマンのあこがれだった郊外一戸建てだが、子どもたち世代は、世帯収入の減少などもあり、職業の選択肢が豊富で、子育て環境に優れるより便利な都心に居住して、郊外に戻ってこないことも予想されている。

老朽化した建物や空き家が増加しているのに、資産の流動性が低いのも課題。持家比率が多く所得レベルも高いため、空き家になっても、中古流通市場に回らないことや、団地建て替えの合意形成が難しいことなども問題とする。
暮らしの側面についても、医療、介護、子育て、商業、交流施設など、日常生活に必要な施設が不足していることが、高齢者の暮らしや若者世代のライフスタイルとミスマッチを起こしている。かつては乱開発を防ぎ、閑静で良好な街並み維持のために敷かれた建築協定や土地利用計画等が、逆に次世代型の再開発の足かせとなっているケースもある。また、課題の本質が大き過ぎて、地域住民、行政、開発業者の連携が不可欠なのに、これまで十分な協働がなかったことや、地域コミュニティの活性化が課題であることも浮き彫りとなった。

誌面情報 vol40の他の記事
おすすめ記事
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方